第122話「一票」



「さて、くだらねえ子芝居はこれくらいにして……食うか」

「そうだね。お兄ちゃん」


「「いただきます」」


「そう言えばお兄ちゃんって、サクラお義姉ちゃんの家でも食べて来たんだよね?」 モキュモキュ♪

「軽くだけどな……」 パクパク

「それなのに、よく帰ってからも私と同じ量を食べられるよね……太るよ?」


「あ、それなら大丈夫だ。だって、俺『食べても太らない体質』だから」


「お兄ちゃん、そのセリフ……私以外の子に言ったら殺されるよ?」

「お、おう……分かった」


(でも、確かにお兄ちゃんって全然太らないよね。ご飯は結構食べる方だと思うし、運動もあんまりしてるようには見えないのに……)


「しかし、妹よ。そう言うわりにはお前も『太らない体質』じゃないの?」

「はぁ~お兄ちゃんは全然、分かってないね……いい? 女の子はいろいろと大変なんだよ」

「そうか……あ、そうか! 確かに胸も痩せ――」


「おうコラ! お兄ちゃん!? 今なんて言おうとしたのかなぁ~??? もし、それ以上先を言ったら、内容によってはお兄ちゃんの本棚を燃やし、下段の辞書は再利用の為にサクラお義姉ちゃんと、委員長さんと、桃井先輩の三人に送るはめになるけど、いいのかなぁ~んん??」


「――っと、何か思いつきそうになったが、忘れちゃったなぁ……一体、俺は何を言おうとしたんだっけ?」

「ふむ……よろしい」

「……マジですみません」


(てか、妹よ……さっきの本棚の下段からのくだりはどういう意味かな……? ぐ、偶然だよね? 普通に辞書を焼くのはもったいないからリサイクルの意味で言ったんだよね? そ、それ以上の意味なんて……な、無いよね? お兄ちゃんは妹が勝手に兄の部屋のヒミツを探るような子だとは思っていないからね……?)


「……そういえば、お兄ちゃんって生徒会長選挙に出るんだよね?」

「ああ、朝倉さんと同じ大学に入りたいからな」 

「うわぁ~なんて不純な動機……」

「じゃなきゃ、俺みたいな奴が『生徒会長』なんかに立候補するわけないだろ」

「まぁ、そうだよね~でも、なんかサクラお義姉ちゃんも生徒会長に立候補しているみたいだけどそれはどうなの?」

「ああ、アレは……まぁ、いろいろ手違いがあってだな。しかし、結局は俺か朝倉さんが当選すれば問題なしだ」

「ふーん、そうなんだ……でも、そうしたらお兄ちゃんの妹の私としてはお兄ちゃんかサクラお義姉ちゃんのどっちを応援すればいいのか迷うんだけど?」

「え」


(そりゃ当然、朝倉さんに決まっているだろう。だって、俺は石田の野郎に投票で勝っていれば問題ないわけだし……それに、この投票のキモは朝倉さんがどれだけブッチ切りの投票を得れるかにかかっているんだ。だから、普通に考えれば朝倉さんを応援するに決まっているが――……)


「お兄ちゃん?」

「あ、ゴメン。ちょっと考えてた……」

「そんなに考えること? それで、私は投票の時に『お兄ちゃん』と『サクラお義姉ちゃん』のどっちに入れた方がいいの?」

「そうだな。やっぱり『朝倉さん』に入れた方がいいな」

「ふーん、そうなんだ……」


「でも、俺に投票してくれると嬉しい」


「え、結局どっちなの……?」

「いや、だから――作戦的には多くの票が朝倉さんに入るべきなんだけど……」


(それでもここで求められているのは妹の『一票』だ。決して『一票』を軽く思っているわけでなく……いやむしろ『一票』とはいえ、これは俺の『妹の一票』なわけだ! 選挙では『妹の一票』でも『ただの一票』と集計では何も変わらないが、俺にとって大きく違う意味を持つわけで――)


「ええい! つまり『お兄ちゃん』としては『妹の一票』は自分に欲しいって意味だよ! 言わせんな恥かしい!」


(大体、所詮は妹一人が俺に入れようが、朝倉さんに入れようが選挙結果にたいした違いは無い! だ、だけど……その一票は俺の精神的に大きな役割を持たせてくれる。なら、この『一票』くらいは俺がもらっても問題ないだろう。委員長も数パーセントは絶対自分に入る票が必要だと言っていたしな……)


「ほへぇ~お兄ちゃんは私の『一票』がそんなに欲しいんだ……へぇぇ~♪」

「な、なんだよ……急にニヤニヤしやがって……」

「別に~? あ、私食べ終わったからお風呂に入ってくるね! ご馳走様でしたぁ~ニョフ♪」 パタパタ~

「はいはい……さっさと、風呂入って寝ろ」


(まったく……妹の奴ったらあんなことで浮かれやがって……)


「あ、そうだ」 ピタ!

「ん、どうした?」


「お兄ちゃん、そんなに私が大好きなら……お風呂一緒に入る?」 キャピ☆


「ばーか。いいから、さっさと風呂に入れ」

「はーい」 


「まったく、アイツは……」


(……風呂なんて、お前が中学に入ってから一度も一緒に入ってねえだろ)


「にっひひ~~♪」







【次回予告】


「皆、いつも応援してくれてありがとう! 俺様だ! 山田! 山田様だ! 山田様の出番がついに次回予告にぃ~~~~きたぁあああああああああああ!

 さて! 次回の『山田』は!

 そう! 俺だ! 俺様が出るぞ! やっと来たぜ俺の出番! 俺の時代!

 いや……ふっ! これは、むしろ『時代が俺様に追いついた!』って奴だな! がっはははははは! じゃあ、皆! 次回も『何故かの』をよろしくなぁあああああああああああああああああああああ!!」


「うるさい。山田、黙ってろ!」


* 次回予告の内容は嘘予告になる可能性もあります。





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