第78話「ハッピーエンド」
『ぼっち』とジュリエットの小学校公演当日
ナレーション『ただいまから「『ぼっち』とジュリエット」を開演します』
観客『ワァアアアアアアアアアア!』
ブーーーー ←開演のブザーの音
『西暦2595年……あるエロナと言う街に、一人の美少女がいました』
「私の名はジュリエット! この高校で一番の美少女よ!」 ペターン!
(ついに本番が始まったわ……私のやるべき事は一つ。完璧にジュリエットを演じて、この劇の中で安藤くんに新しいハッピーエンドを選ばせること!)
『ある日、舞踏会を抜け出したジュリエットはそこで一人の「ぼっち」と出会いました』
「あぁ! ロミオくん、ロミオくん! 何故、貴方は『ぼっち』なの……?」
「友達がいないからですぅーっ!」
『そして、二人は恋に落ちたのです』
観客『今の流れで!?』
『しかし……二人の関係は「ぼっち」のロミオを良く思わない生徒により、ジュリエットの父親の学院長にバレてしまいました』
「何ぃいい!? ジュリエットが『ぼっち』なんかと付き合っているだと!? 認めん! 友達が100人もいないような男など、ジュリエットには相応しくない!」
『そして、学院長の手によりロミオは退学となりジュリエットの元から去ってしまったのです』
「さようなら、ジュリエット……僕の最初で最後の友達(愛しい人)」
「ロミオ! 何で貴方がいなくならなければいけないの……? そんなの私は認めない……例え貴方が地球の裏側に行こうとも絶対に追いかけて見せるんだから!
イン・チョー、お願い。手伝って!」
「ジュリエット、任せなさい!
このポーションを飲めば四十二時間だけ仮死状態になれるわ。これで、死んだと思わせて、私が貴方を学生寮の外に逃がしてあげるわ!」
「イン・チョー、ありがとう!」
『こうして、ジュリエットはロミオを追いかけるために学生寮からの脱出を計画しました』
「ヤ・マーダ! ヤ・マーダはいるかしら!」
「忍者、ヤ・マーダ参上だぜ!」
「ヤ・マーダ! 実はカクカクシカジカだから、ロミオにジュリエットを迎えに来るように伝えるのよ!」
「…………」
「…………」
観客『(……ん? どうしたんだろう?)』
「あれ? 俺のセリフ何だっけ……? まぁ、いいや! かしこまり!」
「ヤ・マーダぁあああああああああああああああああああああああああ!」
(山田ぁあああああああああああああああああああああああああ!)
『あ、あははー……し、しかし、イン・チョーの伝言を忘れてしまったヤ・マーダはロミオに脱出の計画を上手く伝える事ができませんでした』
「『今夜、学校の校舎裏の駐車場に来い。そこでジュリエットを預かっている』だと!?
な、何だこの脅迫状は……ジュリエットが危ない!」
(山田のバカ、何で本番でセリフを忘れるんだよ! てか、桃井さんもよく山田のミスをナレーションでフォローできるよな……)
『そして、待ち合わせ場所に着いたロミオが見たのは仮死状態のジュリエットでした』
「ジュリエット! し、死んでいる!? そんな……何で君がこんな事に!」
『ジュリエットの死に深く絶望したロミオは過去にジュリエットからもらった短剣で自らの喉を貫いて自害しました……』
「え、ロミオ! うそ……い、嫌! 何で……!? いやぁああああああああああああ!」
『そして、目覚めたジュリエットもロミオの後を追ってロミオの短剣で自らの胸を刺してこの世を去ったのです……』
「ロミオ……私は貴方が何処に行こうと絶対に、貴方を『一人ぼっち』なんかにさせないんだから! うっ……」 グサッ!
『薄いジュリエットの胸に、ロミオの短剣は実に良く刺さりました……』
「っ!?」
「――……ブホッ!」
(ちょっと、モモ!? そのナレーションいらないわよね!?)
(い、イカン……死体なのに軽く噴出しちゃった)
(フーンだ! サクラったら私に面倒な仕事を押し付けた罰だよー)
『そして、二人の魂は天国に行き――』
「…………」
(ああ、これでやっとこの劇が終る。結局、別のハッピーエンドは思いつかなかったな……でも、これが俺の考えられる一番のハッピーエンドなんだ。ロミオとジュリエットは天国で『永遠』を手にして――)
テレッテレ~~♪
『その時、不思議な事が起こりました。
なんと、ジュリエットの魂が天国から帰って来たのです』
観客『ッ!?』
「……ッ!?」
(はあ!? 何だこの展開!)
「ロミオ……私、生き返ったわ! 神様が『お前達に永遠はまだ早い』って、私の体を治した上に『死者蘇生』のチート能力のスキルをくれて、私を生き返らせてくれたのよ」
『そ、そう……ジュリエットは生き返った事により……えーと、神様からチート能力【死者蘇生】のスキルを手に入れたのです』
(もぉーーう! サクラったら~~……ッ! 『私がアドリブで安藤くんにハッピーエンドを選ばせるから、モモはその場の雰囲気を読んでなんとかナレーションして劇を進めて!』って言ってたけど……なんなのこの台本!? 『チート能力』って何!? 『スキル』って何!? この二つは何が違うの!?)
「ロミオ、直ぐに私が『死者蘇生』のチート能力のスキルで貴方を生き返らせて見せるわ!」
「!?」
(何だこれ……? もしかして、アドリブ!? しかも、ナレーションも一緒になっていると言うことは桃井さんもグルなのか? てか、これ完全に『なろう展開』じゃん!)
『そして、ジュリエットはロミオに【死者蘇生】のチート能力のスキルを使いました』
「ロミオ、よく聞いて……私のチート能力『死者蘇生』のスキルは一度きりしか発動できないわ。そして、この力で生き返らせられる人間は『私を愛してくれる人』だけ……つまり、貴方が私を『愛して』いなければ……
ロミオ、貴方が生き返ることは無いわ」
「!?」
(朝倉さん!? そ、それはつまり――)
(安藤くん……この劇の結末を選ぶのは『貴方』よ)
「これで、貴方が生き返らなければ――私は一生、一人で生きるわ。だって、貴方を『一人ぼっち』にしてしまったのは私だから……私は全部知っていた。私と関わる事で貴方が周りから疎まれている事も……分かっていた! 私の存在が貴方を不安にさせていたことも……全て! だけど、私は分かっていたのに……知っていたのに、貴方といる事が『幸せ』で、そのために私は分かっていながら、貴方と『二人』になるために貴方が『一人』でいるのを見て見ないフリをしていたのよ!
だから……もし、貴方が生き返らなければ私はその『罪』を背負って貴方の代わりに『一人』で生き続けるわ」
「…………」
(生き返らなければ、ロミオとジュリエットは二人とも『一人ぼっち』になってしまう……だけど、生き返ったとしてもロミオをジュリエットはこれから続くであろう長く厳しい人生を『二人』で生きていけなければいけない……はたして、それが二人にとって本当のハッピーエンドになるのか?
俺は……どうすれば――)
『ジュリエットはロミオの亡骸へと必死に語りかけます。しかし、ロミオが生き返る様子はありません……』
観客『…………』 ゴクリ!
「――ねぇ、覚えているかしら? 前に貴方が言ったこと……『不安』だって、私達の『愛』が永遠に続くものではなく、もしかしたら刹那的な感情じゃないのか? って、貴方言っていたわよね」
「……ッ!」
(それは――俺が朝倉さんに相談した時の! もしかして……これはロミオではなく、俺自身に話しかけているのか?)
「貴方は『不安』だって言っていたけど……その『不安』の正体は『自分』を信じられないからでしょ? 自分が『ジュリエット』を幸せにできるか信じれない……だから、貴方は『死』を選んだ」
「…………」
(だからって、朝倉さんは俺に『自分を信じろ』って言うのか? そして、生きて『ジュリエット』を『幸せ』にする……確かにそれが出来ればこの物語は『ハッピーエンド』だ。でも、俺にはそんな『自信』なんて持てない……
ましてや、こんな『自分を信じる』なんて――)
「なら『私』を信じて!」
「!?」
「貴方の隣に立つ私を信じて! 貴方の事を見ていた私を信じて! 貴方が見てきた私を信じなさい! 自分が信じられなくてもいい……『自信』なんか無くたってもいい!
私が貴方を『幸せ』にするわ!」
『な、なんということでしょう……ジュリエットがロミオに告白しました…………』
観客『…………』 ポカーン
「…………」
(あ、朝倉さん……)
「お金なら二人でバイトでもして働けばなんとかなるわよ! 住む場所も安い所を探すわ! もし、見つけたアパートが隙間風で寒ければ二人で寄り添えば寒くないもん! 逆に蒸し暑かったらお互いにうちわで扇ぎあうのもいいわね!
私は心変わりなんて絶対にしない……む、むしろ、私からしたら貴方の方が浮気しないか心配なんだからね! 私のこの気持ちは『刹那』的なモノではないわ……『永遠』よ!
だって、私は――貴方のことが『好き』だから……」
(朝倉さんが俺を――好き? そ、そんなの……ウソだ)
「私を信じて」
(朝倉さん。なんて真剣な目……まさか、本当に?)
「安藤くん、私は貴方が『好き』よ……だから、私を一人にしないで」
「ジュリエッ――……いや、朝倉さん」
『そ、そして! ついにロミオが目を覚ましました!』
観客『オォオオオオオオオオオオ!』
「俺は……とっても弱い人間だ……『ぼっち』で友達もいないし、捻くれているし、性格も凄く面倒くさい……それでも、こんな俺でも良ければ――朝倉さん……俺を『幸せ』にしてください」
「喜んで♪」
観客『ワァアアーーーー!!』
「さぁ、安藤くん。後はハッピーエンドで終わらせるだけよ」
「ハッピーエンド……」
(ぶっつけ本番だったけど、何とか上手くいったわ! 後は私の書いた台本通り、お互いに抱き合って舞台の幕が下りて――って! そう言えば安藤くんにはアドリブの事を内緒にするためにこのアドリブ台本は渡してないんだったわ!)
(ハッピーエンドって、最後どうやって終わればいいんだ? 舞台袖を見たら委員長がカンペで『早く終わらせて』って書いてある。そうだよな、もう公演の時間は過ぎてるし……でも、ハッピーエンドで終わらせるって……そう言えば山田との会話で――)
『突然だけどハッピーエンドってなんだと思う』
『ハッピーエンド? それはあれだ! 王子様がお姫様にキスをする!』
『王子様出てこねぇよ……』
(そうか『キス』すればいいんだ……)
(ど、どうしよう……こうなったら、安藤くんを引っ張ってそのまま舞台袖に退場を――
……え?)
観客『…………え』
「…………」
「…………」
(私、安藤くんに――『キス』されてる……?)
『…………はっ! こ、これでロミオとジュリエットはなんやかんやで幸せに暮らしましたとさ! めでたしめでたしー♪ 以上で「『ぼっち』とジュリエット」を終了しまーす!』
観客『ワァアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』 パチパチパチ~
「山田! 直ぐに幕を下ろして放心してるロミオとジュリエットを回収するのよ!」
「了解だぜ! 委員長!」
『キャァアアアアアアアアアアアアア! キスよ! あの二人、劇の真っ最中にキスしたわ!』
『ギャァアアアアアアアアアアアアア! お、俺達の女神……朝倉さんがぁああああああああ!』
「ほら! 朝倉さん、早く舞台から降りて!」
「…………」 ポカーン
「おい、安藤! もう劇は終わったぞ!」
「ウェーイ!」
「…………」 ポカーン
(何故か、後ろで女子が黄色い声を上げて、男子が汚い悲鳴を上げているけど、そんな事より……もしかして、俺は勢いに任せてとんでもない事をしてしまったのでは無いだろうか?)
その後……
「あ! 安藤くん、やっと教室に戻ってきたのね! その……大丈夫? 先生達に怒られなかった?」
「朝倉さん……うん、何故か全然怒られなかったよ。むしろ、向こうの小学校の先生や生徒達には大好評だったみたいでうちの学校の先生達も喜んでた……」
「そ、それはそれで恥ずかしいわね……」
(しかし、あの後は大変だった……演劇が長引いたことを向こうの学校に謝って急いで片付けた後に学校に戻ったら職員室に呼び出しだもん……何故か俺だけ)
「…………」
「…………そ、それで他の皆は!?」
「もう、皆先に帰っちゃったわよ……むしろ、安藤くんは怒られてないのに教室に戻ってくるの遅かったわね?」
「それが……一通りの説明が終わった後に、私達の担任様からかなり長い愚痴を言われまして……」
「そ、それは……」
(そもそも、向こうの学校や他の先生達があまり怒らなかったのも、俺達のクラスの担任の先生が頭を下げてくれていたという理由があるからだ。だから、俺も甘んじて先生のネチネチとした長い愚痴を聞いてここまで教室に帰るのが遅くなった)
「安藤くん……私が急なアドリブを入れたせいでこうなって……ごめんなさい!」
「そんな! 朝倉さんは謝る必要ないよ! だって、朝倉さんのおかげで劇は『ハッピーエンド』になったんだし……」
『朝倉さん……俺を『幸せ』にしてください』
『喜んで♪』
「うん……」
「うぅ……」
(そうだ……朝倉さんは俺のためにあそこまで言ってくれた。なら、今度は俺が――)
「朝倉さん!」
「は、はい……」
「好きです」
「――――っ!」
「だ、だから――……」
(言え、言うんだ! 『自信』なんて無い……ましてや『自分』なんて信じられない。でも――)
『なら私を信じて!』
(目の前の『彼女』を信じるんだ!)
「俺と付き合ってください!」
「ひゃい!!」
(俺のこの気持ちは『刹那』的なモノかもしれない……『永遠』なんかじゃないかもしれない。でも、それでも……今、この時だけは――『真実』だ)
「朝倉さん」
「安藤くん」
そして、俺達は――――
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