第38話「100点」




「さて、無事に中間テストも採点が終って返って来た事だし……この図書室で朝倉さんと安藤くんの点数を発表するわよ!」

「はい、委員長!」

「わ~パチパチ」


(てか、何で委員長が仕切っているんだろう? まぁ、いいか)


「因みに、今回は朝倉さんが数学で満点を取ったら安藤くんからご褒美が贈呈されるわ!」

「「わ~パチパチ」」


(安藤くんの……ご褒美)


(やべぇ、まだ何も用意してねぇ……松●屋の割引券でもいいかな?)


「じゃあ、二人とも私が言った教科の点数を発表してね! 先ずは前菜で『国語』からよ!」


「99点よ!」

「67点」


「安藤くん、朝倉さんに勉強見てもらったんでしょ? もう少し頑張りなさいよ……」

「いや、委員長! これでもあがった方だぞ?」


「じゃあ、次の教科は何だかんだ五教科の中で一番影の薄い『社会』よ!」


「97点よ!」

「56点」


「……安藤くん、勉強したの?」

「したって! ほら良く見ろよ! 点数が半分より多いだろ!」


「じゃあ、次はある意味五教科の中で一番嫌っている生徒の多そうな『理科』よ!」

「おい、委員長! 理系の生徒全員を敵に回すのは止めろ!」


「92点よ!」

「83点」


「おぉ……安藤くん、これは朝倉さんほど、とは言わなくても頑張ったのね」

「ほら、今回の範囲って理科は半分以上が電流の分野だったじゃん?」


(あ、察したわ……)


「じゃあ、次は安藤くんのもっとも不得意な『英語』よ! 朝倉さんが勉強を教えた結果はいかに!?」


「97点よ!」

「41点!」


「…………安藤くん」

「私、これでも頑張ったのよ……でも、安藤くん教科書に書いてある単語が全部読めないって……」

「上がった! これでも上がったよ! ほら、ギリギリで赤点じゃないし! それに前回とか俺12点だったからこれでも凄い上がったんだって!」


「では、最後のメインディッシュに行くわ!」

「…………」ゴクリ

「…………」ゴクリ


(ついにこの時が……安藤くんのご褒美)


(よし、点数を聞いた瞬間に土下座して謝るか……それとも諦めて牛丼屋のクーポン券をわたすか……)


「最後の教科! 『数学』の点数は!?」


「98点よ」

「100点」


「……………え」

「へ? あ、朝倉さん……」


(安藤くんのご褒美……欲しかったな)


「ごめんなさい。私……100点取れなかったわ」

「そんな……朝倉さん、じゃあ何で私が結果発表を図書室でして、安藤くんを私達の前で晒し者にするって言った時、どうしてそれを教えてくれなかったの?」

「オイ、委員長ちょっと待て!」

「ごめんなさい……委員長や安藤くんにはテスト勉強でお世話になったから言い出せなくて……」

「そう……私も朝倉さんがミスをしている可能性に気付かなかったんだし、悪かったわ」

「本当に……ごめんなさい」


(朝倉さんが今回のテストで100点を取れない? そんなバカな……正直言って今回のテストもそんなに難しくなかった。テストに出た範囲は俺の予想どうりで勉強会の時にも朝倉さんに教えたはず……)


「ねぇ、朝倉さん。良かったらそのテストを見せてくれないかな? 何処を間違ったのか知りたんだ」

「え、ええ……これよ」

「ちょっと安藤くん、そんな……朝倉さんが気にするでしょ」

「委員長いいのよ。だって、安藤くんは私の為に勉強を見てくれたんだし……」


(これは――)


「朝倉さん、間違ったのってこの問題?」

「ええ」

「これは……最後の文章問題? でも、答えには『○』が――って、式に『×』が付いて減点されてるわ!?」

「そうなの……最後の問題で途中式の一部を足し算じゃなくて、引き算にしてて……でも、答えは正解だからマイナス2点されちゃったのよ」

「ああ、そういえば何故か数学は最後の文章問題だけ式も含めての回答だし、点数配分も式と答えで分かれるから配点が高いのよね……」

「だから、98点か」


(でも、これって……朝倉さんのことだから――)


「安藤くん、せっかく勉強を見てくれたのに本当にゴメンなさい……」

「朝倉さん、頑張ったね」

「うぇ!」


(な、何!? 安藤くんが急に私の頭を撫でて……)


「俺、分かるよ。朝倉さんこの途中式はただの書き間違いでしょ? 頭ではちゃんと計算してるのに、前の式の符号の変化を書き忘れているんだよ。だから、前の式で『-』を『()』内の式にかけているのに『-』の符号が『+』に変わっていないんだ。でも、普通ならそれで答えも変わっちゃうけど、ちゃんと答えがあっているって事は朝倉さんが頭の中で正しく計算できていた証拠だよ。きっと、朝倉さんってこういう文章問題に時間が掛かるタイプだから焦って式を書き間違えちゃったんだね。

 でも、俺からしたら、これを見て100点を取れなかったっと言うより……むしろ、よく98点を取れたって思うよ。だって朝倉さんは時間が無い中で式を書き間違ってもちゃんと問題を解いて正しい答えを導き出したんだから!」


(あ、安藤くん……私を怒らないの? 100点を取れなかったのに私に幻滅しないの?)


「で、でも……私は100点を取れて無い……わ」グスッ

「はぁ、朝倉さん何言っているの? 朝倉さんって……俺よりも頭が良いのに『バカ』だよね」

「ファッ!」


(な、何ですって! 安藤くん、泣きそうになっている私になんて事を――)


「いい、朝倉さん? テストって言うのは『100点』なんて数字をもらうことに価値なんて無い。大事なのは今まで学んだ内容をちゃんと自分の知識にしているか『確認』することなんだ。だから、そんな紙切れの『数字』なんて気にしなくていいんだよ。だって、朝倉さんは今回のテストで最後まで分からなかった問題は無かったでしょ?」

「う、うん……」

「なら、大丈夫だよ。今回のテストで朝倉さんは授業で習った事を全部、自分の知識になった事を『確認』できたんだから! 途中式の書き間違いとか数学の先生のくだらないイチャモンだと思えばいい。だいたい途中式なんて書くだけ時間の無駄だって事が今回のテストで証明されたと言っても過言じゃないね! 朝倉さんは頑張ったよ。えらい、えらい……」

「安藤くん……」


(安藤くんの手……優しいわ。頭を撫でられる度に胸の奥が『ぽわぽわ』してくる)


「朝倉さん、こんな俺の言葉じゃ……気晴らしにもならないかもしれないけど、もしそれでも朝倉さんが今回のテストの点を気にするなら俺が点数をつける!」

「え!」

「安藤くん!? 朝倉さんのテスに何を書いて……ああ!」


(安藤くんが、私のテストに赤ペンで100点って書いて――)


「ほら、これでこのテストは100点だ! 誰がなんと言おうと俺がこのテストは100点満点だって認める。100点を取った俺が言うんだから間違いない! もし、それでも文句を言う奴がいたら先生だろうと俺がぶっ飛ばしてやる!

 だから……これでいいかな? 朝倉さん」

「安藤くん……私、嬉しいわ! 人生で始めての100点よ!」


(良かった。朝倉さん、元気になったみたいだ)


(安藤くん……やっぱり、私は貴方が大好きだわ!)




「………………」


(なんでだろう……イイ話のはずなのに二人の成績を比べたら――)



 朝倉さん 学年順位123人中 総合1位


 安藤くん 学年順位123位中 総合49位



(安藤くん……貴方が言える立場じゃないからね?)








【おまけss】「朝倉さんの一日」



 チュンチュン……チョーーーン! ← 鳥の鳴き声


6時 起床


「うーん……今日もいい朝ね!」


 私は目覚めがいい。だから、いつも朝は少し早く起きて、軽くシャワーを浴びてから朝食を食べるのが日課だ。



6時30分 シャワー ~ 朝食


「いただきます」


 私の家はパン派だ。だから、シャワーを終えるとテーブルにはママが用意してくれたサンドイッチと牛乳とサラダが用意してある。



7時 着替え、登校


「ママ、行ってきます」

「はぁ~い、行ってらっしゃい。ウフフ~♪」


 学校は8時までに行けばいいが私の登校時間は早い。それは別に学校への登校時間が長いというわけでなく、私はいつも早めに学校に登校してる。その訳は――


「今日はこの調子だと15分には教室に着いちゃうわね。ウフフ、これなら今読んでるラノベ30分くらいなら読めるかしら?」


 そう、単純にラノベが読みたいからだ。別に教室の中でもスマホで「なろう」の作品を読んだりブックカバーをかければ教室の中でラノベを読んでいても他の子に気付かれたりはしないが、それでも私は学校では『学校一の美少女』と言われている存在。だからこそ『ラノベオタク』であるということはバレないように、朝クラスメイトの少ない時間帯だけラノベを読むようにしている。

 それにクラスメイトが教室に増えてくると、読んでいるのがラノベだってバレないか、気になって集中できないもの。



7時30分 教室でラノベを読む


「フッフフ~ン♪ やはり、40分くらいまでは誰も教室に来ないわね」


 そう、今この教室の中は私一人……だけ……


「…………誰もまだいないわよね?」 チラ


 私はまだ他の生徒が教室に来ないのを確認すると、こっそりと自分の席を立ち……そして、隣の席に――顔を埋めた。


「ふはぁ~~♪ 安藤くんの席……安藤くんが使っている机……安藤くんの椅子…………」 クンクン……


 これが最近追加された私の日課。ずばり、安藤くんの席でラノベを読むこと!

 い、いや……別にこれには深い意味は無いのよ! ただ……これでも恋する乙女としては好きな人の席に顔を埋めて好きな人と同じ趣味のラノベを読みたいと思うことくらい『ふつう』でしょ? でも、こういう行動って恋する乙女なら誰でもしたいと思うけど……中々行動に移せないじゃない? だから、誰もいない朝の教室でこっそりとホンの数分だけ安藤くんのぬくもりを感じているのよ!


 コツコツ ← 教室に近づいてくる足音


「スゥスゥ……っは、誰かの足音!? 急いで自分の席に戻らないと!」 ビュン!


 ガラガラ~ ← ドアの開く音


「あら、朝倉さん、おはよう。今日も早いのね」

「委員長、おはよう。委員長こそいつも早いじゃないのよ」

「私は委員長だから早くて当然よ。むしろ、私よりもいつも先に登校している朝倉さんの方が凄いのよ?」

「そうかしら? フフ~♪」



8時30分 授業1時間目


「えー……この英文は――」


「…………」 じーー

「zzZZ~~」 スヤスヤ


 授業中、私は真剣に先生の話を聞きノートを取る。そして、目では隣で居眠りしている安藤くんの横顔をバッチリ観察済みよ! どれだけバッチリかと言うと、いま黒板の内容を書き写しているノートの左半分は大量のバラの上で穏やかに眠る安藤くんの肖像画が描かれているくらいバッチリだ!



12時30分 お昼時間


「むぅ、安藤くんったらいつもお昼になると直ぐに何処かへ行っちゃうんだから……」

「サークラ♪ お昼学食で食べようー?」

「モモ、そうね。私達も学食に行きましょうか」


 お昼は出来れば安藤くんを誘いたいと思うのだが、生憎安藤くんはお昼時間になると直ぐに何処かへ行ってしまう。なので、お昼はいつも学食で他のクラスメイトと一緒に食べて親睦を深める時間にしている。



14時30分 授業6時間目


「あー、これ……この数式な。テスト作るのメンドイから、そのままテストに出すわ。点数取れないバカはノートに書いとけよー」


「…………」じーー

「ウチの数学の先生適当過ぎだろ……」 カキカキ


 基本的に殆どの授業を半分寝て過ごしている安藤くんだけど、彼はいつも数学の授業だけはしっかり起きて授業を聞いている。もしかしたら、安藤くんはこの授業が好きなのかもしれない。そして、安藤くんを見てはいるが、当然私も授業はしっかり受けている。ノートも書いてあるし先生が言っていた内容もバッチリ理解している。どれだけバッチリかと言うと、真剣に授業をうける安藤くんの横顔も中々に貴重なので、一本のバラを口にくわえて授業を受ける凛々しい表情の安藤くんがノート一面にしっかりと描写されるくらいにバッチリだ!



16時30分 帰宅


「ふぅ~今日も学校楽しかったわ♪」


 帰宅した後も私は自分の部屋で自主的にノートを広げて勉強をしている。やはり、学生の本分は勉強だ。だからこそ、予習と復習はしっかりしておかなければいけない。まぁ、これが終ったら寝るまでラノベを読んだりするのだけどね。



18時30分 夕食


「ぐへへ~~……やっぱり、結婚したら子供は最低でも大手レーベル分は欲しいわよね~♪」


 コンコン ← ドアを叩く音


「ご飯できたわよ~~」

「ママ! もう、こんな時間なのね。うん、予習はこれくらいにしておこうかしら? うん、今行くわ!」



19時30分 お風呂 そして、読書


「ふー、さっぱりしたわ……さて、勉強もしたし、ご飯も食べたし、お風呂に入ったし、あとは溜まっているラノベを読むだけよ!」



23時00分 就寝


「ムニャムニャ……眠い……そろそろ、寝ようかしら? ウフフ……このラノベ面白かったわ。明日、安藤くんに教えなきゃ……」 zzZZ~~♪



 こうして、私の一日は今日も幸せに過ぎていくのだった。



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