第13話 エイト、アヌスと食卓を囲む。
うーん。
俺……昨夜は一体どうしていたんだろ?
……なぜか
朝、目が覚めたら押し入れの中で眠っていたんだ。
手を後ろに回されて縛り上げられた状態でだ。
昨日、アヌスタシアにインローソードを見せて貰ってからの記憶が
なにか、物凄い
押し入れで目覚めて直ぐに助けを呼んだら、
料理店が開く時間では無いので、朝食は部屋の中で食べる決まりになっているらしい。
宿屋の従業員がパンやらハムやらサラダやらオレンジジュースやらを、俺達の部屋へと運んで来てくれた。
セヴェンも、こちらの部屋にやってきている。
シルバは用事があって既に出掛けたそうだ。
みんな既に朝風呂を済ませていたらしいので、俺も入る事にした。
風呂から上がって着替えたら、アヌスタシアと目が合った。
「おはよう」
「…………………………………………おはよう」
彼女はジト目で睨みながらも挨拶を返してくれた。
えっ!?
俺、なにかした?
……いや、俺が何かしたので怒っているというよりも、どちらかと言えば俺を鋭く観察するような視線だ。
まるで、何かに気づかれるのを恐れているような?
「どうしたの? なんだか機嫌が悪いね?」
「貴様が気安く、おはよう……なんて言うからだ。ちゃんと、ございます……を付けろ。この不敬者が……」
カクさんが俺に、そう説明してくれた。
「……違うわよ」
アヌスタシアは否定した。
カクさんは少しだけ涙目になった。
俺はテーブルの
「そうしていると本当に女の子にしか見えないな」
スケさんが俺の
「まあ、この姿をするようになってから長いですからね」
「そういえば、どうしてエイトは女装なんてしているんだ?」
「それは……」
答えかけた俺は強烈な視線を感じた。
言わずもがなアヌスタシアである。
俺は自分の事を話すのをやめて、アヌスタシアの方を横目で見て尋ねる。
「俺が、どうかした?」
「……昨夜の事は覚えていないの?」
「インローソードだっけ? 見せて貰ったけど凄いというか面白い剣だよね」
「それで?」
「それでって……実は、そこから先の記憶が曖昧なんだよな」
アヌスタシアは何故かホッとしたような顔をする。
俺は記憶の掘り起こしを続ける。
「なんだか、スキルに関する重要な話を聞いた気がするんだ」
「む、無理に思い出さなくてもいいんじゃないかしら?」
アヌスタシアが慌てるように言うと、カクさんも大きく縦に頷いた。
しかし俺は気になって仕方がないので更に記憶を、こじ開けようとする。
「なにか、こう……とても素晴らしい事をアヌスタシア様から聞かされた気がするんだ」
「へ、へえ〜……」
アヌスタシアは苦笑いをしていた。
なぜだろう?
彼女がドン引きしている気がする……。
「何を話したのか……覚えていないかい?」
「さ、さぁ? 覚えていないわ」
アヌスタシアは少しだけ汗をかきながら、俺の質問に答えた。
「……ところでアヌスタシアって。レベルの刻印が何処にあるんだっけ?」
俺が、その台詞を言った途端に、アヌスタシアの顔は真っ赤になった。
カクさんは
アヌスタシアは目を閉じ、
「あんた……覚えているくせに、わざと知らない振りをして、からかっているんでしょう?」
俺は大きく首を横に振った。
本当に覚えていないのだ。
しかし身の危険を感じたので、食事をしながら話題を変えてみる事にする。
「スケさん」
「んあっ?」
「さっきの話ですけど……」
「……さっきの話ぃ?」
もう、忘れたんかい!
「俺……私が何で女装しているかについてですぅ」
「声を変えるな。気持ちが悪い。メシが
……。
気を取り直して……。
「実はベイエイのマフィアに追われているんです」
「はあぁ!? また何で、そんな連中に?」
「ギャンブルで、少しトラブってしまって……」
「……あー」
なんだろう?
四人から妙に納得した表情で見られている。
失礼な。
特にスケさんから、そんな目で見られるなんて心外だ。
「実は俺、捨て子だったんです」
もちろん転生後の話だ。
「朝からヘビーな話だな……。ま、いいや……それで?」
「とある富豪の屋敷の前に捨てられていたらしいんですが……」
その頃の俺に前世の記憶は無い。
思い出してきたのは物心がつき始めた頃だった。
「その富豪……義理の両親が優しくて学校にまで通わせてくれていたんです」
「いい話だな」
「使用人としても働いていたのですが、ある日を境に義理の両親にとって本当の娘と……その……身体の関係になってしまいまして……」
アヌスタシアがセヴェンに毒味をして貰おうとして、相手の口元に運んでいたサラダを落とす。
カクさんがジュースを飲もうとして、むせた。
スケさんは少しだけ面白そうにニヤついている。
「それで、その娘が使っても良いと言うもんだから、ついついギャンブルに大金を注ぎ込んで……全部スってしまって……」
「恩を仇で返したわけだ」
「はい……それで富豪から、やや貧乏人にクラスチェンジをさせてしまって……」
「おいおい、ヒデェな」
「それでまあ良心の
「そりゃ、そうだろうな」
「ベイエイで、その筋の組織の助けを借りて死亡届を出して、戸籍を性別ごと別物に変えてヴァーチュリバーに逃げて来たんです」
「なんだ、それじゃエイトってのも偽名か?」
「はい、本名はハチヘイって言います」
俺の転生前の名前は、
転生後は
アヌスタシアが口をあんぐりと開けている。
「呆れた……あの時、私を
「あれは、その……反射的に身体が動いてしまったというか……」
「私にキアンの助命も、お願いしていたじゃない?」
「いや〜……店に入った時に彼女が、裸同然で泣きながらポールダンスを踊らされているのを見て、その不幸っぷりに、これで殺されたら流石に可愛そうだな……とか思っちゃって……」
スケさんも呆れた顔をして俺を見つめながら指摘する。
「おかしいとは思っていたんだ。だってエイトは、俺達が店内の従業員や客達に襲われていた時に、後ろへ下がって高みの見物をしていたもんな?」
よく見てんな、この人。
「いやぁ……あの大人数が相手だと非力な俺じゃ助けになりませんよ。それに……」
「それに?」
「三人とも美人だから、負けて囚われたらキアンと同じ衣装を着てポールダンスを踊らされるのかなあ? だったら見てみたいなあ……と、思って……」
あれ?
こいつら三人ともドン引きしてるぞ?
美人だって
「私の、ちょっとした感動を返して欲しいわ……」
アヌスタシアが呆れた様子で溜め息を
「お嬢様……こいつ、本当に警備隊へ突き出した方が良いのでは?」
カクさんが真剣な表情でアヌスタシアに相談した。
「ベイエイからの要請でハチヘイという奴が指名手配されているとは聞いていないから、向こうでの一件でエイトを捕まえるのは無理だな」
代わりにスケさんが、カクさんに答えるように伝えた。
「女が自分の思い描いた欲望の通りに堕ちるのはいいが、傷ついたり死ぬのはイヤだとか……分かりにくいんだか、分かりやすいんだか、分からん奴だな」
スケさんは、そう言って苦笑いをした。
アヌスタシアは俺に尋ねる。
「でも他国に逃げれば死亡届の偽装がバレても捕まる心配が無いとはいえ、どうして過去の悪事や負い目を私達へ正直に告白する気になったの?」
……なんでだろう?
俺は自問自答してみる。
「多分……誰かに打ち明ける事によって少しでも楽になりたかったんだと思う」
アヌスタシアと目が合った。
「それにアヌスタシア様達とは今日でお別れになるわけだし、話しても良いかな? ……って思ったんだよ」
なんだか五人で朝から、しんみりとしてしまった。
「一宿一飯の短い付き合いだったけど、楽しかったよ?」
俺は、そう言ってアヌスタシアに微笑みかける。
彼女は無言で俯きながらも微笑み返してくれた。
そんな時に部屋と廊下を仕切る扉からノックの音がした。
「どうぞ? 開いていますよ?」
セヴェンが外の廊下にいる者に対して中に入るように
「失礼いたします」
中に入って来たのは宿屋の女中だった。
「あの、お客様? 警備隊のシェリーと名乗る方が見えられて、火急の要件にて是非お会いしたいとの事なのですが……お通ししても
……えっ!?
もしかして俺、本当に突き出されるの?
俺は四人の顔を見回したが、全員で首を大きく横に振っていた。
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