第7話 エイト、アヌスと入りそうになる。

「あれ? ゴメン……もしかして別の宿に続けて泊まっていたりする?」


 アヌスタシアの質問に、俺は首を横に振った。


「……そうよね? 今夜の宿は、まだ決めていないような事を言っていた気もするし……貴女に傷をつけてしまった、せめてものお詫びに食事と宿を奢らせて貰おうと思ったんだけど……迷惑だったかな?」


 アヌスタシアの問い掛けに、俺は再び首を横に振った。


 迷惑だなんて、とんでもない!

 ゴチになります!

 でも、同じ部屋に泊まるのは……実は問題があるんですよ!


 困っている俺を見かねて、カクさんが尋ねてくれる。


「もしかして、別々の部屋の方が良かったか?」

「できれば……その方が助かります」

「困ったな……宿屋の女将に、もう空室は無いと聞かされている」


 そ、そんな……。


「今の時間からエイトの部屋を求めて別の宿を探すのもなあ……」

「流石に見つかりっこ無いわよ。こんなに夜遅い時間帯じゃあね」

「姫様の恩人を野宿させるわけにもいかないし……」


 当たり前だ!

 俺だって野宿なんて御免だ!


「……私と一緒の部屋で寝泊まりするの、イヤ?」


 アヌスタシアが片手を握り、それを下唇に当てて潤んだ瞳で見つめてくる。


 ず、ずるい!

 そんな可愛い顔で、お願いされたら……。


「い、嫌じゃありません」

「良かった!」


 アヌスタシアは、にっこりと笑う。

 ……癒された。


 違う、そうじゃない。


 馬鹿馬鹿、俺の馬鹿!

 バレたら彼女の笑顔が消えるどころじゃないってのにっ!


「じゃ、一緒にお風呂へ入ろ? さっ、エイトも服を脱いで?」


 アヌスタシアは俺の着ているワンピースのスカートの裾を掴むと、無理やり脱がそうとした。

 俺は慌ててスカートを押さえて抵抗する。


「す、すみません! それだけはっ! それだけは勘弁して下さいっ!」

「えぇっ!? どうして……」


 何故なのか尋ねようとしたアヌスタシアが、言葉に詰まった。

 彼女は俺の手の甲にある薬品による火傷痕を見て、悲しそうな顔になる。


「……そっか、そうよね。ごめん、私ってばデリカシーないよね」


 ……えっ!?

 あ、ああ……そういう事?


「ちがっ、違うんですっ! 別に、この傷痕を気にしてお風呂に一緒に入りたくないとか、そういうんじゃ無いんですっ!」


 若干、目尻に涙を浮かべていたアヌスタシアが、キョトンとした顔になる。


「それなら、どうして?」


 それが言えたら、苦労はしない。


「あの、その、姫様と一緒に湯に浸かるなど……恐れ多くて……」


 アヌスタシアの顔がほころぶ。


「そーんなの、気にしなくていいのに。コルネアとだって、しょっちゅう入ってるし」

「そうだぞ? それに、せっかく美しき我が姫と共に裸の付き合いができるのだから、むしろ断る方が不敬にあたる」


 美しいと言われて、まんざらでもない様子のアヌスタシアは、微笑んで得意げに髪を、ふぁさぁっと搔き上げる。


 コルネアは既に全裸で、タオルを肩に掛けながら俺の方に向いていた。

 適度に筋肉が見えつつも非常に女性らしい均整のとれた身体だった。

 セヴェンほどではないが、胸も結構大きかった。

 下着も着けていないので繁みも露わだ。


 ……鼻血が出そうだ。


 コルネアは、さらにアヌスタシアの美について説明を続ける。

 なぜか鼻息を荒くしながら……。


「姫様の裸は素晴らしいぞ! 真珠みたいに透き通るかのような白い裸身! 上質の絹のような手触りの滑らかな肌! 洗った後に宝飾品のように美しく輝く金色の髪! 湯に浸かって気持ち良さそうな表情の時に潤んだ瞳の艶かしさといったら……」


 ああ……。

 この人なんだ……。


「……カクさん……」


 アヌスタシアは少しだけ、ひいていた。


「なんでしょうか、お嬢様?」


 満面の笑みで尋ねるコルネア。


「背中は自分で洗うことにするわ……」

「そ、そんな……?」


 コルネアは、しょんぽりとした。


「あ、あの、その……に、荷物番も必要でしょうし、私は後でお風呂をいただきますので……」


 俺はアヌスタシアに、そう言い訳をした。


「そう? まあ、無理に引き摺り込むのも悪い気がするし……」

「入り口の扉の鍵は、しっかりと閉めているから大丈夫だと思うんだが……じゃあ荷物番を宜しく頼むとするかな」

「じゃあ、お願いね?」


 自分から買って出た事とはいえ、今日初めて会った奴に荷物番をさせるのも、どうかと思ったが……。

 それだけ俺の事を信用してくれているんだな。

 なんだか隠している事に関して悪い気がしてきた。

 だが、明日には別れる相手達だ。

 今日一日だけでも、これだけは隠し通さねば……。


 そんな事を考えている俺の目の前で、アヌスタシアはブラを脱ぎ始めた。

 まだ低い双丘の頂きにある淡いピンク色の乳首が、ゆっくりと一つずつ露わになる。

 俺は目を逸らす事ができなかった。

 続いて彼女は、下着に親指を掛けた。

 丁寧に少しずつ脱いでいく。

 ちょっとだけ金色の陰毛が見えたあたりで、俺は慌てて後ろを向いた。


 これ以上は騙したままで見てはいけない。


 乳首と陰毛を見たくせに、自分勝手な、そんな事を考えてしまった。


 後ろを向いている俺に、アヌスタシアは優しく声をかけてくる。


「それじゃあ、先にお風呂をいただくわね?」

「荷物番は頼んだぞ?」


 楽しそうに会話を交わしながら風呂場へ向かう二人。

 やがて扉が開かれて、続けて閉まる音が聞こえると、俺は室内にあるトイレへと向かうのだった。

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