水曜日とモンブラン
暗い夜道を歩きながら、
家に帰る途中のことでした。
『 』
唐突に浮かんだその言葉を否定するだけの体力を、
その時の私は持ち合わせていませんでした。
その一方で、幸いにも、とも言いますが、
浮かんだそれを実行に移すほどの気力もまた、
その時の私は持ち合わせがありませんでした。
家の前の階段をのぼりながら、
鍵を取り出そうとしたときでした。
『 』
二度目のそれはなかなかに手ごわく、
私のこころを弱らせます。
追い討ちをかけるように、悪いことに、
かじかんでうまく動かない指も、
私のこころを萎えさせました。
真っ暗な部屋。
こういう日に限って、風呂場の電球が切れていたりもして、
実に最悪な気分とは、この日の私のようなものを言うのでしょう。
これだから水曜日は嫌なのです。
荷物を床に放り出しながら、
なんとなく冷蔵庫をあけたときでした。
『 モン ブラン 』
その存在を完全に忘れていた私は、
さっきまでこころに浮かんでいた言葉を容赦なく蹴っ飛ばしました。
そう遠くには転がっていってはくれませんでしたが、
ともかく、それを蹴飛ばすことには成功しました。
ツヤのあるマロングラッセ。
マロンクリームの甘さは絶妙を極め、
束の間、これこそが幸福と、私は信じて疑いませんでした。
ほう、と一息ついてみれば、そこは我が家でした。
あちらにも、こちらにも、私の好きなものばかりが並んでいます。
(仕事の関係のものには、少しの間目を瞑ることとします。)
眠い目をこすりながら、
布団に潜り込んだときのことでした。
『 』
心に浮かんだ言葉は、私がそれを認識する前に、
闇の中にどろりと溶けていきました。
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