少年「ねぇ魔女さん、人は何で出来てるの?」
ナルミ
第1話
「今日はどこへ行こうかな。」
戦争で孤児になった少年は孤児院を抜け出して、裏の森へ散歩へ行くのが日課だった。孤児院の職員は口癖のように「森には魔女が出て、その魔女にさらわれるから近づいてはいけません。」と子供たちに教えていた。
しかし少年はそんな事は全く気にしていなかった。どうせ大人たちが作った嘘だ、どうせちょっとしたモンスターが出る程度だ。そんなふうに思っていた。
今から4年前、魔物と人間との戦争があった。きっかけは魔物が人間界を侵略しようとしたと言われ、人間は自分たちの領土を守るために必死で戦ったという。少年の両親はその戦争に巻き込まれ亡くなった。
戦争は2年続き、最後は魔王軍の撤退により人間は勝利した。しかしこちらも被害は大きく、魔王と戦った勇者はその中で戦死、世界を司る5つの国の内2つが滅び、残る3つもダメージを負った。相手の首領である魔王も相当な傷を負い、今はその傷を癒やしているという。その戦争も終わり、少なくとも人間の世界は少しずつ修復されている。
それで孤児になったこの少年、彼はどうも孤児院に馴染めず、一人で遊ぶようになり、結果危険を犯しても森を探検するのが癖になっていた。
森を歩くのは楽しかった、図鑑でも見た事の無い植物、大小関わらず動物が多くいる。時には木の実を採り、孤児院の近くに植えたり、こっそり持ち帰り図鑑で食用か調べたり、時にはそれを餌に野うさぎやリスをおびき寄せ、動物と遊んでいた。
そんな折、少年はふと思った。
「今日はいつもより遠くへ行こうかな。」
普段は昼食の時間になれば孤児院に戻り、また出て行くが、今日はお弁当の日だ。孤児たちは皆同じ弁当を作ってもらい、各々好きな場所で食べるという日だった。普段は孤児院の前に広がる草原や、その中にある牧場、畑などで食べていたが、森で動物と食べると美味しいかも、そんな事を考え、少年は裏からこっそりと森へ向かった。
今日は遠くまで行ってみよう、少年は歩いた。小川を越え、小さな山を登り、少年は歩いた。
「ずいぶん遠くまで来たな、今日はここで食べよう。」
日当たりのいい岩場を見つけた少年はそんな独り言をつぶやき、丁度いい岩を見つけ腰掛けた。木漏れ日が差し込み、暖かくなった岩は絶好の休憩ポイントだった。近くで、遠くで小さな動物の足音や鳴き声、木々の擦れる音、そんなのが少年の耳をくすぐり、その心地よさに身を委ねて、近くに寄ってきたリスや子鹿に採ってきた木の実や草をあげていた。
食事も終わり、ふっと一息着いて少年はその場に寝転び、目を閉じた。先程から不定期に、だけどどこか規則的に聞こえなくもない自然の音楽に耳を傾けて、うつらうつらと一人夢の中に入ろうとしていた。
「気持ちいいなぁ。」
そんな独り言をつぶやいた後だった。
近づいてくる足音に気付いた。少年は夢現だったが、その音を聴いてみると、どうやらシカや野うさぎ、タヌキやキツネ、四本足で歩く動物の音ではなかった。もしかして人間?いや、こんなところに居るわけがない。少年はうっすら目を開けて体を起こそうとした時、誰かの声が降り注いだ。
「おや?こんなところで珍しい、人間に会うなんて。」
少年は驚いて飛び起き、声をかけた。
「誰!?」
返事が帰って来た。
「あら、ごめんね驚かせちゃった?別に取って食ったりしないから安心おし。」
目の前の女性はそう言った。黒いローブを羽織り、ブロンドの長い髪、紫色で大きな瞳を持つ女性だった。少年より少し大きな体・・・とはいえど、成人した女性より頭一つ背が低く、少なくとも大人には見えない、歳は16か17程だった。それでも10も行かない少年からすれば、大人には見えた。少なくとも自分よりも背が大きく、歳も上だから当たり前だ。自然の中に全く馴染まない、だけどどこか美しいその女性に少年は訊いた。
「あなたは誰?」
女性は目を細くし、柔らかい笑顔を浮かべ、その少年の前に腰掛けて言った。
「私は森の魔女、この先少し行った塔の中に一人で住んでるの。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます