お前の小説、俺なりに改変してやるよ。

水源+α

第1話

 蝉や日暮がそこら中で哭き、熱帯のような蒸し暑い、ある夏の夜の日のことだった。

 その日、俺はいつも通り高校へ行き、いつも通り授業を受けて、いつも通りバイトへ行き、そしていつも通りに、帰宅して、夕食、風呂を済ませて趣味であるゲームやらネットを漁ったあと、布団の中で読書をしていた。


 読んでいるジャンルは様々だが、割合が高いのは純文学かライトノベルで、現在読んでいるのは、ポツンと本屋の隅に置かれていた、王道ファンタジーの部類だ。


 その内容は、至ってテンプレなものだった。


= = = = = =



 とある王国の小さな村に生まれた少年。

 少年は活発で、よく居る男の子みたいな性格をしており、好きなことは狩人である父と一緒に狩りに出掛けることだった。

 その少年は温かい家族と、生まれた時期が同じな一人の村娘と仲間達と共に日々を過ごしていたが、突然現れた魔王により、次々と王国の郊外の街や村が被害にし始めた。

 それは王国だけの話に留まらず、世界中が混沌と化す中で、ある日少年の村も魔物の襲撃に遭ってしまう。

 目の前で次々に大人達が倒れていくのを見て、少年も狩りをするときに使っていた剣を手に取り立ち向かう。

 しかし、子供が魔物相手に敵う筈もなく、あっけなく少年は魔物の攻撃を受けて倒れてしまう。

 倒れた少年から魔物は次に村娘を目標にして襲いかかる。

 その時、少年はむくりと立ち上がり、別人のような剣捌きで村娘を背に蹴散らし始めた。

 当然皆は驚愕し、困惑したが、少年の余りの戦い振りにそれは徐々に期待や羨望、歓喜に変わっていった。

 その後、少年は村で英雄とされ、父から剣を教わり、魔法は母から教わって、青年期に入ると、少年は魔王を倒すという目標を立て、旅に立つ。

 村からは盛大な別れを、仲間達からは快い別れを、家族と村娘には悲しい別れを告げて、少年は旅に立つ。

 そこからは東西南北の色々な地域で出会った新たな仲間達と共に問題を解決し、何時しか旅をする少年達は『勇者パーティー』と呼ばれ始め、そしてついに魔王城に辿り着くと、壮絶な戦いで魔王を打ち倒し、世界に平穏が訪れた。

 村に帰ると、村人達、仲間達に家族が迎え入れてくれた。

 しかし、村娘が迎えに来てくれない。

 その理由を仲間達に聞くと、気まずそうな表情を浮かばせながら、渋々とこう少年に告げるのだった。


『他の男作って出ていったんだ』


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──という感じで終わるストーリーで、最後の悲劇以外は至ってテンプレだ。


 最後の最後で胸糞悪くするだけのライトノベル。


 そんなライトノベルを寝床で読み終わり、「……はあ」と嘆息すると、俺はおもむろに立ち上がって、台所に水を飲みに行った。


 普通はここで本を読み終わった達成感の余韻に浸るところだが、あの胸糞悪いラストを見てしまったので、納得のいかない感じに浸ってしまっている。


「おかしいだろ。何でラストだけ王道ファンタジーを突き通さないんだよ。あえてくっつかせないことでちょっとオリジナリティを出そうとしてるのか、作者の唯の嫉妬の仕業なのかは知らないがな……最後だけ寝とられ要素で脱線する意味あるか?」


 文句を垂れながら、水道水を一気に煽ると、また寝床へ戻ってくると、枕元に置かれた胸糞小説を机の上に置き、俺はパソコンを起動した。


 実は、趣味はゲームやらネットやら読書やらだけではない。

 寧ろ、これが俺のメインな趣味だ。


「よし始めるか」


 そう自分に喝を入れると、胸糞小説をパラパラと捲りながら、こう呟くのだった。


「今回はお前だな。理由? お前が余りにも王道過ぎて、オリジナティがなく、しかも最後の最後で胸糞要素があったから。だから俺の手でその物語を改変してやるよ」





 

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