影狼の主

星野フレム

 面白い話って苦手でね。何が面白いのかという基準も分からない。

 何が面白いのかなんて、実は興味がなかったりする。

 そんな僕がこの話をするのは、多分気まぐれだろう。


 あの男の名はキミヨリという。影に狼を飼っていることから、影狼かげろうあるじと言われている。

 運悪く僕は彼に会ってしまった。僕にとっても、彼にとっても、お互い得しない話だ。


 あれはそう……いつもの夕暮れ時だった――


「おいそこのアンタ」

「?」

 銀髪の男に呼び止められ、僕は振り返る。

「僕の事ですか?」

 街中、他にも振り返る人がいたが、彼は僕を真っすぐ見てこう言った。

「アンタの影はもうじき無くなる」

 この男は何を言っているのだろう? 困惑した僕の顔色を見て彼は続けた。

「……半年……いや、下手したら三ヵ月無いな」

「は、はぁ……」

 新手の宗教勧誘だろうか? よく分からないのだが、とにかくその場を離れたほうが良いなと感じた。

 その直感は正しかった。僕はこの男から逃げたほうが良いのだ。僕は……ある事をしてしまったのだから。

「何人目だ?」

 その言葉に僕はびくりとした。体が震えている、なんでだ? この男はどうしてこんなことを言うんだ。

「さっきから……何を訳の分からないことを――」

 そう言おうとした瞬間、左腕を掴まれて引っ張られた。

「何を……!」

「……」

 彼は静止して手の甲にあるそれを観ていた。暫くしてからこう言い放つ。

「影無しの刻印」

 これがいつ刻まれたのか心当たりはないか問われる。僕はその質問に答えられない。

「アンタ、影を消すために何人殺した」

「!」

 確かに彼は今、殺したと言った。なぜそれを知っているのだろう? かといって僕を捕まえに来た警察には見えない。

「え……っと……」

 答えに詰まる。困った、どうしてだ? なぜ人を殺したのがバレたんだ? いや、それより影無しの刻印って言ったな……そしたら彼も関係者なのか?

「同業で人殺し。そういやいたな、闇村公有やみむらこうゆうって男が昔いたな。アンタ、闇村なのか?」

 僕は……彼を知らない訳じゃない。その線では知り合いがいるから、彼が誰であるかを本当は知らない訳じゃない。だけど、怖かったから聞きたくなかった。

 僕はあの名前を聴きたくないのだ。

「俺はキミヨリ。影狼の主のキミヨリだ」

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