クラスカースト下位の俺が宝くじで300億円当たったら神扱いされ始めたんだがどうすればいいのだろうか?

水無月六八

第1編

第1章 俺の青春はどうなるのだろうか?

第1節 幸せへのキセキ



 とおるようなあおうみゆめたようなしろくも


 せてはかえ人魚にんぎょのささやきごえのようななみおと


 青空あおぞらのただなかにある暴力的ぼうりょくてきなまでに爽快そうかい真夏まなつ太陽たいよう



 そこはまさに南国なんごく楽園らくえんだった。



 今年ことし五月ごがつ十六歳じゅうろくさいになった俺、たちばな啓太郎けいたろう高校こうこう一年生いちねんせい夏休なつやすみをこれ以上いじょうないほどに満喫まんきつしていた。


 なにせ家族かぞく五人ごにん常夏とこなつ楽園らくえんまれたか南国なんごくしま、ハワイのオアフとうにリゾート旅行りょこうていたのである。最高さいこうでないはずがない。


 

 ゴザのうえにて水着みずぎ寝転ねころんでいる俺のすぐちかくにはしろ砂浜すなはまびている。


 大勢おおぜい外国人がいこくじんのおねえさんたちがきわどい格好かっこうはだいている。


 子供こどもたちの英語えいごでの浅瀬あさせではしゃぐこえこえる。


 若者わかものたちがはる沖合おきあいからのなみってサーフィンをしているのがわかる。


 余生よせいたのしんでいるのであろう高齢こうれい欧米人おうべいじんならべられたビーチチェアのうえ、パラソルのかげしたくつろいでいる。



 白日はくじつという言葉ことばがぴったりとてはまる燦爛さんらんたる太陽たいようは、まるで祝福しゅくふくをこの楽園らくえんびせるかのように俺の頭上ずじょうかがやいている。



 ああ、楽園らくえんだ。正真しょうしん正銘しょうめい楽園らくえんだ。日本にほんでのいや現実げんじつからげて、ここにずっとんでいたい。


――俺のこえをこんなふうかたちにしてくれた両親りょうしん感謝かんしゃしないとな。


 そんなことを感慨かんがいぶかおもいつつ、あおいサーフパンツを穿いて寝転ねころんでいる俺のくちから、自然しぜん言葉ことばれる。

「おにいちゃん、ずっとここにみたいなぁー」


 すると、かげしたにて紺色こんいろのスクール水着みずぎている小柄こがらいもうとが、ちいさく体育たいいくずわりをしたまま不満ふまんげにつぶやく。

「……わたし……もう日本にほんかえりたい」


 ふたつのリボンでなが黒髪くろかみをツインテールにしてっている細身ほそみ華奢きゃしゃ中学生ちゅうがくせいいもうとの、意気いき消沈しょうちんした言動げんどうを俺はわらいとばす。


なぁにいってんだよ美登里みどり。せっかくとうさんとかあさんがすくない貯金ちょきんなかから旅行りょこう費用ひようしてくれたんだぞ、もっとたのしめ」


 すると、いもうと美登里みどり小声こごえかえす。

「……うち漫画まんがきたい。あかるいひと大勢おおぜいいるとこ苦手にがて……」


 俺の二歳にさい年下としした今年ことし十一月じゅういちがつ十四歳じゅうよんさいになるいもうと美登里みどりは、少々しょうしょう思案じあんなところがある。アウトドアな趣味しゅみよりもむしろ、インドアな趣味しゅみほう大好だいすき。


 そして、今年ことし四月しがつ中学ちゅうがく二年生にねんせいになってから不登校ふとうこう


 このハワイ旅行りょこうも、そんないもうと将来しょうらい心配しんぱいした両親りょうしんが、俺のした提案ていあんもとになけなしの貯金ちょきんをはたいて企画きかくしてくれたものであった。


 そこに、いもうととは正反対せいはんたいのオーラをはなあかいビキニ姿すがた健康的けんこうてき女性じょせい人影ひとかげが俺たちにちかづいてきた。


 頭上ずじょうかがや太陽たいようのようにあかるいこえが俺たちにげかけられる。

「いやー! さっきからアメリカじんおとこたちにナンパされまくってこまっちゃったよー!」


 俺は寝転ねころんだまま、もう一人ひとりおんな姉妹きょうだい元気げんきこえかえす。

「よかったじゃんねえちゃん。で、なにおごってもらったりとかした?」


「それがねー、ねえちゃん英語えいごぜんっぜんわかんないからげてきちゃったよー!」


 茶髪ちゃぱつをショートカットにした脳天気のうてんきなこの女性じょせいは、俺の四歳よんさい年上としうえ大学生だいがくせいねえちゃんだ。名前なまえ明日香あすか万年まんねん彼氏かれし募集中ぼしゅうちゅう


 ちなみにあかいビキニ水着みずぎしたにあるそのからだは、むねがわりとおおきくてこしがくびれているというめぐまれたスタイルだが、腹筋ふっきんがいくつにもれているムキムキの身体からだである。


 ねえちゃんはスポーツ推薦すいせん大学だいがくはいった大学だいがく二年生にねんせいで、あたまわるいがとにかくつよい。かおはそれなりにいいのに、筋肉質きんにくしつからだわざわいしてか日本にほんおとこには壊滅的かいめつてきにモテない。


 ここハワイでねえちゃんが外国人がいこくじんおとこたちに相次あいついでこえをかけられたのは、おそらく筋肉きんにくのある女性じょせいかんじる魅力みりょくが、アメリカじん日本人にほんじんでは根本的こんぽんてきおおきくことなるためなのだろう。


 俺は皮肉ひにくをこめてねえちゃんに言葉ことばかえす。

「きっと、外国人がいこくじん日本人にほんじんとは美的びてき感覚かんかくちがうんだよ。ねえちゃん、アメリカにまれてたらよかったのにな」


「おーおー! そんなこというかこのやろー!」


 ねえちゃんが寝転ねころんでいる俺のこめかみをぐりぐりとする。かなりいたい。本当ほんとういたい。勘弁かんべんして。



 ちなみに両親りょうしんはイルカをるためにふねって別行動べつこうどうをしているので、このちかくにはいない。



 ねえちゃんが、いもうとちかくにいてあった自分じぶんのポーチバッグとシャツをる。

「みどりー、バッグのばんありがとねー。なーんかあたし、のどかわいちゃったなー。啓太郎けいたろう、コンビニのものってよー」


 上体じょうたいこした俺は、ねえちゃんの提案ていあん愚痴ぐちっぽくかえす。

「えー、なんで俺が? ねえちゃん一人ひとりってくればいいじゃん」


「あたし英語えいごできないからしょーがないじゃん、ほらくよー!」

 ねえちゃんはそうい、つよちからで俺のって無理むりやりにがらせる。


 俺は仕方しかたなく、ちかくにいてあった自分じぶん荷物にもつとシャツをってサンダルをいてねえちゃんについていく。


 すると、一人ひとりだと心細こころぼそいのであろういもうとが、自分じぶんふくろとシャツをってさらに俺たちのうしろからついてくる。



 サンダルをらしてある最中さなかに、上半身じょうはんしんはだかだった俺は素肌すはだうえにアロハシャツを羽織はおる。


 ねえちゃんもいもうとあるいている最中さいちゅうおなじようにアロハシャツを水着みずぎうえから羽織はおる。街中まちなかあるくのに水着みずぎのみの姿すがたはやはり抵抗ていこうがあるからだ。


 しかしいもうとはスクール水着みずぎうえにシャツという、一部いちぶのマニアックなおとこたちに非常ひじょうけそうな格好かっこうになっていた。


 いもうとはその破廉恥はれんち姿すがた無自覚むじかくなままだったので、いたずらに羞恥心しゅうちしんあおるような言葉ことばはかけないでおいてあげた。それがあにとしていもうとあたえられる最低限さいていげんやさしさである。



 砂浜すなはまちかくには自動車じどうしゃ一方いっぽう通行つうこうはし三車線さんしゃせん大通おおどおりがあり、歩道ほどうには定間隔ていかんかく南国なんごく樹木じゅもくわっている。


 とお沿いにあるくと、ちょうど距離きょりちいさなコンビニがあった。といっても、日本にほんのコンビニエンスストアのように蛍光灯けいこうとうがぎらぎらしてはいない。シックないろいたかんじで、景観けいかんこわさないように配慮はいりょされている。



 看板かんばんには英語えいごで、日本にほんではいたことのないみせ名前なまえいてあった。おそらくアメリカ資本しほんのコンビニなのであろう。



 時間じかん問題もんだいなのだろうか、店内てんないにはそんなにひとがおらず閑散かんさんとしていた。レジではふとったやさしそうな白人はくじん中年ちゅうねん女性じょせい店番みせばんをしている。


 店内てんないはいったねえちゃんは一直線いっちょくせんにドリンクるいいてある冷蔵庫れいぞうこかい、とびらけてなかにあるカラフルなおさけのビンを一本いっぽんった。


「へへっ、一度いちどいからハワイの浜辺はまべでおさけんでみたかったんだよねー」

 そんなことをねえちゃんの背中せなかに、ちかづいた俺は言葉ことばいさめる。


ねえちゃん、二十歳はたちになったばかりだってのに、おさけみすぎじゃない?」

「いーのいーのー、二十歳はたちになるまでずっと我慢がまんしてたんだからー。バチはたらないっしょー」


 ねえちゃんはつい一ヶ月いっかげつまえ今年ことし七月しちがつ二十歳はたちになったばかりなのである。


 俺はゼロカロリーコーラを、いもうとはベジタブルジュースをそれぞれおさけとはべつ冷蔵庫れいぞうこからしてる。そしてレジカウンターにすすむ。


 すると、ねえちゃんがバッグからしたドル紙幣しへい一緒いっしょに俺にパスポートをわたしてきた。


 俺はねえちゃんにつたえる。

ねえちゃんパスポートなんかってきたの? ビーチに?」

「もっちろーん! 年齢ねんれい確認かくにんができないとおさけなんかってくれないっしょー。あたまいいっしょー!」


 パスポートのような貴重品きちょうひんをこんなところにってくるのはどうかとおもうけど。


 俺も美登里みどりも、そういう大事だいじなものはビーチからすこはなれたところにあるホテルの部屋へやのセーフティーボックスにまってあるし、いま財布さいふ中身なかみ小銭こぜにくらいしかはいってないってのに。


 パスポートをりつつ俺がそんなことをかんがえていたら、ねえちゃんが言葉ことばつづける。

「だぁーかぁーらー、あたしが二十歳はたちだってことおみせひと説明せつめいしてよねー。英語えいごでー」


「ああ、だからねえちゃん俺をれてきたのかよ」

「そうそう、期待きたいしてるよ秀才しゅうさいくんー!」


 秀才しゅうさいってほどでもないんだけどな。


 俺たち三人さんにんにドリンクをってレジのまえつ。


 レジの店番みせばんをしているふとった白人はくじん中年ちゅうねん女性じょせいは、商品しょうひんだいうえいた俺たちをると笑顔えがおになって「Welcome(ようこそ)!」とネイティブな英語えいごはっしてくれた。


 えーっと、ねえちゃんが二十歳はたちであるってことを説明せつめいするわけだから……


 たどたどしい英語えいごを、英文法えいぶんぽうかんがえつつくちからしぼす。

「えっと……Myマイ elderエルダァ sisterシスタァ hasハズ beenビーン twentyトゥエンティ yearsイヤーズ oldオールド sinceサインス……」


「あ、日本語ニホンゴ大丈夫ダイジョーブデスよ」

 外国人がいこくじん女性じょせい流暢りゅうちょう日本語にほんごに、俺はこころなかでずっこけた。


 すると、俺からパスポートをげたねえちゃんが嬉々ききとしてつたえる。

「なぁーんだ、日本語にほんごしゃべれるんじゃんー。あたし、もう二十歳はたちだからおさけくださいー!」


 ねえちゃんがパスポートをひろげて元気げんきさけぶと、中年ちゅうねん女性じょせい両手りょうてねえちゃんのこえをさえぎるようなジェスチャーをした。


「ごめんなサイね。日本ニホンではタシかにおサケ二十歳ニジュウサイからデスけど、 合衆国ガッシュウコクではおサケ二十一歳ニジュウイチサイからなんデスよ」


「えーっ!? そうなのー!? ビーチでむのたのしみだったのにー!」

 ねえちゃんがおおきなこえなげくと、中年ちゅうねん女性じょせい言葉ことばかさねる。

「ソレに、ここ Hawaii(ハワイ) では beach(ビーチ) などの公共コウキョウ場所バショではおサケむことは法律ホウリツ禁止キンシされているんデスよ」


 ねえちゃんが両肩りょうかたとして落胆らくたんする。

「なによそれー、がっくしー」


『がっくし』なんて言葉ことば口語こうごはじめていたよ。


 そしてねえちゃんは、おさけのビンをにとって哀愁あいしゅうただよ背中せなかせて冷蔵庫れいぞうこかう。俺はそんなねえちゃんの後姿うしろすがたこえをかける。

ねえちゃん、おさけはほどほどにな」


「はいはーい、わーってるってー」

 俺の言葉ことばに、ねえちゃんは返事へんじをしてうしる。


 ねえちゃんがわりのドリンクをってくるまでしばらくたなければならない。


 俺はそこでいもうと美登里みどりが、ひざげしゃがんでレジだいしたられているポスターをるようにつめていることにづいた。


 俺はいもうといかける。

「どうした? 美登里みどり


 すると、いもうとがポスターを指差ゆびさして明確めいかく口調くちょうはなす。

「……このキャラ可愛かわいい、しい」


 ポスターには、カートゥーンじみた眼鏡めがねをかけているイルカのキャラクターがえがかれていた。


 そして、そのうえにはこんな英字えいじ感嘆符ビックリともならんでいる。


『BlueMarble Lottery!!!!』


 俺は英語えいごかれたその文字もじ確認かくにんする。

「ブルー・マーブル・ロトリー? ロトってことは、たからくじ?」


 すると、店番みせばん外国人がいこくじん女性じょせい笑顔えがおで俺につたえる。

「はい! Hawaii(ハワイ) ではずっと、タカラくじのような gamble(ギャンブル)法律ホウリツ禁止キンシされていたのデスが、数年前スウネンマエ法律ホウリツわってえるようになったんデスよ! 日本ニホン方々カタガタ大勢オオゼイってらっしゃいマスよ!」


――へー、アメリカではたからくじもギャンブルあつかいなんだな。


 俺がそんなことをかんがえていると、いもうとがしゃがみながら俺のシャツをぐいぐいる。


「……おにいちゃん、このキャラしい。グッズかなにかないかいて」


 その言葉ことばに、中年ちゅうねん女性じょせいが応える。

「この character(キャラクター)sticker(ステッカー) でしたら、タカラくじを五口ゴクチっていただいたお客様キャクサマにはれなく present(プレゼント) させていただいておりマスよ?」


 俺はかえす。

五口ごくちでいくらですか?」


10ジュウ dollars(ドル) になりマス」


 俺はすこしばかりためらった。


 レートはだいたい1ドルが110えん前後ぜんごだから、つまり10ドルとは日本にほんえん千円せんえんあまりだ。


 たかが紙切かみきれに千円せんえん使つかってしまうというのは、いくらハワイ旅行中りょこうちゅうだとしてもいささかはばかられる。


 俺はそこであらためて、しゃがんだままのいもうと姿すがた視線しせんもどす。


 いもうとは、玩具おもちゃしがっている小動物しょうどうぶつのような純真じゅんしん無垢むくけがれなきまなこを俺にけて、無言むごんでこのキャラのステッカーがしいとうったえかけていた。


 そもそもこのハワイ旅行りょこうは、いもうと不登校ふとうこうがなんとかなるようにと両親りょうしん企画きかくしてくれたものだし、いもうと心残こころのこりをたせたまま日本にほんかえるのはあにとしてもうしろめたい。


 そうおもった俺は、空港くうこう両替りょうがえしてもらった10ドル紙幣しへい自分じぶん財布さいふからし、キャッシュトレイのうえいた。


「そのブルー・マーブルとかいうたからくじ、五口ごくちねがいします」


 すると、中年ちゅうねん女性じょせいこたえる。

「ありがとうございマス」


 中年ちゅうねん白人はくじん女性じょせいはにこにこしながら、いもうとにイルカをモデルにしたキャラクターのステッカーをわたし、俺にマークシートのような用紙ようしせてきた。


「このカミデ、きな数字スウジムッエラぶのデスが、computer(コンピューター)エラんでもらうこともできマス。どうなさいマスか?」


――五口ごくちもわざわざ記入きにゅうするのは面倒めんどうくさそうだ。


 そうおもった俺はかえす。

「コンピューターでえらんでください。五口ごくちとも」

 俺がそううと、おんなひとは「OK!」と了承りょうしょう言葉ことばを俺につたえてマークシート用紙ようし機械きかいれて操作そうさはじめた。


 そこに、ねえちゃんがスポーツドリンクをってもどってきた。

「あれー? 啓太郎けいたろうー、なにったのー?」


「ああ、ちょっとたからくじをね」


 そううと、ねえちゃんはわらばす。

たからくじぃー!? そんなのたるわけないじゃん! おかね無駄むだだよ無駄むだー!」


仕方しかたないだろ、美登里みどりがステッカーしがってたんだから。ねえちゃんも半分はんぶんしてくれてもいいんだけど?」


「ええー!? あたしはいやだよー、そんなのにおかね使つかうなんてー。おかね啓太郎けいたろうしてよー」


 俺とねえちゃんがそんないをしていると、わたされたシールをったいもうとがご満悦まんえつこえす。

「……わたしは、おにいちゃんにもらったこのシールうれしい。大事だいじにする」


 その言葉ことばいてうれしくなった俺は、いもうと言葉ことばわたす。

「よーし、たったらおにいちゃん、美登里みどりになんでもきなものってやるからな」


 すると、ねえちゃんが即座そくざ元気げんきこえす。

「あたし、もう一回いっかいハワイにたいー!」


「だぁれがねえちゃんにもわたすってったかよ?」

 俺が口元くちもとゆがめつつ横目よこめかえすと、ねえちゃんがほがらかにわらう。

「ま、いーけどねー。たるわけないしー」


 俺もねえちゃんもわらいあった。俺たちは本当ほんとうなか兄弟きょうだい姉妹しまいだった。


 そして、こんなたからくじがたるわけがないこともわかっていた。


――たからくじは、ゆめうもの。


――たからくじをってられるのは、ほんのすこしのあいだ希望きぼうと、家族かぞくゆめかた時間じかんだけ。


――ただそれだけ。


 このときは、たしかにそうおもっていたのだった。



 そんなこんなで、俺たち家族かぞく五人ごにん三泊さんぱく五日いつかのハワイ旅行りょこうおおきなトラブルに遭遇そうぐうすることもなく、無事ぶじめくくりとなったのであった。



 いて事件じけんをあげるとすれば、両親りょうしんがドルフィンウォッチングのさいふねがわからなくてこまっていたところを、英語えいごができる親切しんせつ日本人にほんじん旅行者りょこうしゃ男性だんせいたすけてもらったということくらいだ。


 その日本人にほんじん男性だんせいもたまたまおなふねでイルカを予定よていだったらしく、船上せんじょうはなんで名刺めいしまでもらってしまったらしい。なんでも東京とうきょう弁護士べんごしをしている三十歳さんじゅっさい男性だんせいだったのだとか。



 ハワイのホノルルとうにあるイノウエ空港くうこうから、日本にほん関東かんとう地方ちほうにある成田なりた国際こくさい空港くうこうへとかう飛行機ひこうきなかにて俺は、夏休なつやすみがわったあと生活せいかつのことをかんがえていた。



――日本にほんかえってからは、また日常にちじょうへともどらなければならない。



――たとえそれが、どんなにみじめで湿しめっぽい現実げんじつであったとしても。


 

 そんなことをおもいつつ、俺はエコノミークラスの座席ざせきから、まどこうの夜空よぞらかがやく、りばめられた欠片かけらのようなほしひかりながめていた。


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