モンクス・ローブの前を払うと、きゃしゃな足を包む長靴下が見えた。簡素な膝上までのチュニックが、いろっぽい。そのメリハリのある姿態は目にもあざやかだ。


 その姿形が胸に刺さるようで、リオンは目線をそらした。


 チャンプはこのひとが好き……。


 しかし、えらい目に遭うとはどういう意味であろう。


 想像がつかない。


「アリーシャお嬢さん、リオナお嬢さんをおつれしましたぜ」


 チャンプがいんぎんに頭を垂れた。彼はアリーシャをまともに見ようとしなかった。視線を感じないことで、リオンは、ひょっとしたら自分が男だと言い出すチャンスではと考えた。


「は……はじめまして。アリーシャ、さま」


 声をだすと、びっくりしたようにアリーシャはリオンを見た。


「はじめまして。リオナ? あなたはリオナよね? 声が、そう、少しハスキーだわ。男だったらどうしようかと思ったわ」


 チャンプがすかさず、


「リオナお嬢さんは風邪をおひきなすってる。のどにいいものをあてがってあげてください」


 承知してアリーシャは使用人に言づけた。


 リオンはしまったと思った。これでは言い出すチャンスはない。


「かわいそうに。だから言ったでしょ、はやく私のところへ連れてくるのよって」


 チャンプはよそ見をしている。聞こえないふりなのだ。


「ちょっと、聞いてるのチャンプ!」


 いきなりアリーシャがそばにあった燭台を投げようとするので、使用人が慌てた。


「離しなさいッ。ええい、私に触れるなど許しません!」


 言うが早いか、燭台のきっさきが従者の服を裂いた。気難しい気性らしい。


 チャンプはひそかにためいきし、リオンが見ると彼は細かく首をふっていた。


「なにかにつけてこれじゃ、従者もたいへん――いや。お嬢さん、立ち話もなんだし、領主さまに会わせてもらえませんかね」


 青年は前半の語尾をささやきで消した。


 やがて、気のすまないままに、アリーシャはリオンを……リオナを招いた。


「こちらへ。着せ替えてあげるわ。おじが狩りから帰るのに時間がかかるの。どちらにしろ話を聞きたいし」


 ――まずい。チャンプがあわててさしとめた。


「おい……おじょうさ――」


 にらむアリーシャに彼は次の句が継げない。


「なに? なにか思い違いをしているのね。あなたはもう、帰りなさい」


 彼女は追い払うようにあごでチャンプにさしずした。


「リオナお嬢さんの代わりに話せるのは、俺しかいないと思うんですがね」


 あくまでいんぎんなチャンプに、アリーシャは切り返すのを忘れない。


「ろくに知らないって、言ったじゃないの」


 彼女のいら立ちは頂点に達した。


「あれからちょっとばかり話したので。ティユーさまのこととかを、ね」


 青年は諦めないのだ。


 切札を出されたとたん、アリーシャの気ぜわしい動きがとまった。


「あら――……そう。じゃあ、くればいいわ。ただし、部屋の外で待つのね」


 アリーシャは、頭をそらした。彼女は、小さいことにはいついつまでもこだわらない気質らしい。


 そこだけは好感が持てたリオンだった。

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