◇
モンクス・ローブの前を払うと、きゃしゃな足を包む長靴下が見えた。簡素な膝上までのチュニックが、いろっぽい。そのメリハリのある姿態は目にもあざやかだ。
その姿形が胸に刺さるようで、リオンは目線をそらした。
チャンプはこのひとが好き……。
しかし、えらい目に遭うとはどういう意味であろう。
想像がつかない。
「アリーシャお嬢さん、リオナお嬢さんをおつれしましたぜ」
チャンプがいんぎんに頭を垂れた。彼はアリーシャをまともに見ようとしなかった。視線を感じないことで、リオンは、ひょっとしたら自分が男だと言い出すチャンスではと考えた。
「は……はじめまして。アリーシャ、さま」
声をだすと、びっくりしたようにアリーシャはリオンを見た。
「はじめまして。リオナ? あなたはリオナよね? 声が、そう、少しハスキーだわ。男だったらどうしようかと思ったわ」
チャンプがすかさず、
「リオナお嬢さんは風邪をおひきなすってる。のどにいいものをあてがってあげてください」
承知してアリーシャは使用人に言づけた。
リオンはしまったと思った。これでは言い出すチャンスはない。
「かわいそうに。だから言ったでしょ、はやく私のところへ連れてくるのよって」
チャンプはよそ見をしている。聞こえないふりなのだ。
「ちょっと、聞いてるのチャンプ!」
いきなりアリーシャがそばにあった燭台を投げようとするので、使用人が慌てた。
「離しなさいッ。ええい、私に触れるなど許しません!」
言うが早いか、燭台のきっさきが従者の服を裂いた。気難しい気性らしい。
チャンプはひそかにためいきし、リオンが見ると彼は細かく首をふっていた。
「なにかにつけてこれじゃ、従者もたいへん――いや。お嬢さん、立ち話もなんだし、領主さまに会わせてもらえませんかね」
青年は前半の語尾をささやきで消した。
やがて、気のすまないままに、アリーシャはリオンを……リオナを招いた。
「こちらへ。着せ替えてあげるわ。おじが狩りから帰るのに時間がかかるの。どちらにしろ話を聞きたいし」
――まずい。チャンプがあわててさしとめた。
「おい……おじょうさ――」
にらむアリーシャに彼は次の句が継げない。
「なに? なにか思い違いをしているのね。あなたはもう、帰りなさい」
彼女は追い払うようにあごでチャンプにさしずした。
「リオナお嬢さんの代わりに話せるのは、俺しかいないと思うんですがね」
あくまでいんぎんなチャンプに、アリーシャは切り返すのを忘れない。
「ろくに知らないって、言ったじゃないの」
彼女のいら立ちは頂点に達した。
「あれからちょっとばかり話したので。ティユーさまのこととかを、ね」
青年は諦めないのだ。
切札を出されたとたん、アリーシャの気ぜわしい動きがとまった。
「あら――……そう。じゃあ、くればいいわ。ただし、部屋の外で待つのね」
アリーシャは、頭をそらした。彼女は、小さいことにはいついつまでもこだわらない気質らしい。
そこだけは好感が持てたリオンだった。
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