◉
「やめろよ、剣とかそういうのは」
「どうしてだよっ」
リオンはかみついた。シガールは両手を肩の高さでひらひらさせる。
「あー、ほら。私は剣があつかえないからな」
「だからなんで?」
「実はだれにも言ってないんだが……」
「うんうん」
リオンはすっかり聞き入る体勢に入っていた。ところが、
「あっ、すみません。手洗い水はどこ? ねえ、そこの美人のおねえさん」
急に相手が立ち上がるのでリオンは肩透かしをくらった。
シガールはやさしい聖婦に導かれて、部屋の角へと足をはこぶ。
水音をさせて彼が両手を水樽から出した。相手はそのまま、したたる水滴を床に落として視線を伏せるのだ。
「私はなあ、王子だから……」
間髪入れずにリオンは問う。
「それは聞いた。だからなんなんだ?」
完璧に話がそれてはいないか? ところが、
「第一王子は剣技なんかいらねえのよ。戦争は子分にやらせるしな」
「第一王子? あんたが?」
そうだ、と首をまわしつつ相手がこたえる。リオンは真剣に考えてそんをしたと思った。
「うそをつけ。第一王子がこんなとこで施しを受けていたら、この国はなんなんだ」
「まにうけるな」
ぐっとつまってあえいだ。
「リオン、私は裏の世界に封印されたんだぞ。そうそう刃物なんか、触らせられたと思うか」
声をひそめてのひねくれた言い方に、リオンはいらついた。
「使い方くらい……あつかえそうなもんじゃないか。放逐ったって、そんなに長い間じゃないんだろう。ここにこうしている以上」
黙ってシガールは、いや、とその目で応えた。
「十七年間、空を見たことがなかった。星も、太陽も、風も緑もみんな、知らなかった」
言ってからシガールは咳きこんだ。
「だからって……なんだって……?」
耳を疑ったリオンは大声を出した。
「実の息子を十七年も? どこの馬鹿だその親は!」
「この国の王だって、言ったろうが」
絶句。そののち爆発。
「最初に言え! なにが暴れ馬だ。あんた、どこで嫌われるようなことをしたんだ。言ってみろ、ええっ?」
テーブルを平手で打つと、シガールがかなわないというように、
「なんでおまえが怒鳴らなきゃいけないんだ。鎮まれ、リオン」
シガールは目をすがめて制止にかかる。リオンはその手をふり払った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます