「やめろよ、剣とかそういうのは」


「どうしてだよっ」


 リオンはかみついた。シガールは両手を肩の高さでひらひらさせる。


「あー、ほら。私は剣があつかえないからな」


「だからなんで?」


「実はだれにも言ってないんだが……」


「うんうん」


 リオンはすっかり聞き入る体勢に入っていた。ところが、


「あっ、すみません。手洗い水はどこ? ねえ、そこの美人のおねえさん」


 急に相手が立ち上がるのでリオンは肩透かしをくらった。


 シガールはやさしい聖婦に導かれて、部屋の角へと足をはこぶ。


 水音をさせて彼が両手を水樽から出した。相手はそのまま、したたる水滴を床に落として視線を伏せるのだ。


「私はなあ、王子だから……」


 間髪入れずにリオンは問う。


「それは聞いた。だからなんなんだ?」


 完璧に話がそれてはいないか? ところが、


「第一王子は剣技なんかいらねえのよ。戦争は子分にやらせるしな」


「第一王子? あんたが?」


 そうだ、と首をまわしつつ相手がこたえる。リオンは真剣に考えてそんをしたと思った。


「うそをつけ。第一王子がこんなとこで施しを受けていたら、この国はなんなんだ」


「まにうけるな」


 ぐっとつまってあえいだ。


「リオン、私は裏の世界に封印されたんだぞ。そうそう刃物なんか、触らせられたと思うか」


 声をひそめてのひねくれた言い方に、リオンはいらついた。


「使い方くらい……あつかえそうなもんじゃないか。放逐ったって、そんなに長い間じゃないんだろう。ここにこうしている以上」


 黙ってシガールは、いや、とその目で応えた。


「十七年間、空を見たことがなかった。星も、太陽も、風も緑もみんな、知らなかった」


 言ってからシガールは咳きこんだ。


「だからって……なんだって……?」


 耳を疑ったリオンは大声を出した。


「実の息子を十七年も? どこの馬鹿だその親は!」


「この国の王だって、言ったろうが」


 絶句。そののち爆発。


「最初に言え! なにが暴れ馬だ。あんた、どこで嫌われるようなことをしたんだ。言ってみろ、ええっ?」


 テーブルを平手で打つと、シガールがかなわないというように、


「なんでおまえが怒鳴らなきゃいけないんだ。鎮まれ、リオン」


 シガールは目をすがめて制止にかかる。リオンはその手をふり払った。

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