〇
「……そうか。こちらは返り討ちにしてやる」
リオンが瞳を燃やし、長剣のありかを探るが、ない。腰に佩いていたのに。
チャンプは慌てて遮った。
「おいおい、喧嘩腰じゃだめだ。宿屋はサービス業なんだぞ。しっかり愛想振りまいてくれなきゃ困る」
ますます喧嘩腰になってリオンは噛みついた。
「勝手に、決めるな」
息切れがする。めまいも少し。
「だって、いるんだろ? 仕事が」
諦めるしかなかった。その通りだ。肩から力を抜くと、投げやりに尋ねた。
「なにをすればいい」
どのみち住みこみなら話が早いのだ。
「えっと……ま、とりあえず体を治せや」
さしあたっては相手もまだ、適当な役目が思い当たらないようだ。
パサついた頭をかきながら、青年がやけに親切に言う。焦る。
予想以上に弱っている。精神面も。ぎくしゃくしていると、思わず足元がもつれた。リオンは寝台の上に手をつく。自分の足が、思いもよらぬ頼りなさ。
「ずっと寝てたからな。筋力落ちてるだろ。当分リハビリテーションがおまえの仕事だ」
なにか言おうとすると青年は止めた。
なぜか逆らえない。勢いもあるが、青年の言葉に驚いたせいだ。
「皿洗いくらいかな、まずは」
そのくらいならと、ほっとするリオンに、青年が『楽勝すぎるか?』と、ふと困った顔をする。とんでもない。
今の自分に何ができるのか? 根拠もないのにそんな自信などない。しかし相手は雇い主。
「なんでもやる」
仕事を選ぶ気は全くない。
言いながらめまいがし、眼前が暗くなった。眠りにつく前、ほとんど何も口にしていなかった。他はどうでも、腹にものを入れねばならない。
「だが、この綱をとっとと外してもらおう。オーナー」
オーナーは宿屋の女将だったが、リオンは知らない。ほとんどあきらめたように了承すると、同時、気づくと視点は床の上だった。暗転。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます