ここでひるんでばかりもいられず、腹筋に精一杯の気概をこめる。


 ゆっくり、単調ながらも、ハッキリ区切って言ったのだった。


「は・ず・せ! 俺は仕事を探すんだっ」


 瞬間、青年の横顔に、はっきりとした喜色が浮かんだ。


「じゃあ、働かないか? うちで」


 リオンは言葉を失った。全く思いもかけないことだった。そして青年が本気だとは予想だにしなかった。


「うなるまえに、これがガキのいうことかどうか、見てみろよ。手伝わせてやる。俺のすること、見てろ」


 リオンが何か言う前に、チャンプはひとっとびで扉にとりついた。握りを思い切り引き開けると、彼は大声で告げる。


「おふくろ、店員が増えた!」


 思わずリオンはよろめいた。


「なんだい、勝手に、いい加減にしておくれよ」


 扉の向こうで呆れた声がする。あたりまえだ。だが青年はあたりに響く美声で言った。


「タダだぜ?」


 リオンは足元をふらつかせ、机の脚につまづき、縁の部分に頭をぶつけた。だが扉の向こうでは、大いに受け入れ態勢に入っていた。


「なら、一も二もないね。つれておいで」


「いいってさ!」


「……いくらなんでも、それはないんじゃないか?」


 片眼をつぶって青年は意気揚々。


「これからきりきり舞いさせてやるぞ」

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