◎
「恐れ入ったよ。三日たたずに起き上がったのは初めて見たぜ」
チャンプが再び肩を震わせている。
リオンは乾いた唇を湿してたずねた。
「今日はいつだ」
「昨日だぜ、やりあったのは。それとも急いでいたか?」
「いや……」
相手は簡単そうに答える。
リオンは首をふった。
「しかしさすがだ」
「イヤミか」
小さな机を拳で打つと、大げさに相手は飛びのいた。
「ストップ。感心してるのさ、もちろん」
言いながら、青年はまたシガレットに火を着けた。
「飯がまずくなる」と言いかけたが黙って口に運んだ。すると、着けたばかりの火をもみ消して、青年が思い出したように言う。
「あとな、許してくれよな。身元証明っつのが見たくて中を確認させてもらった。悪気じゃねえんだから、な?」
親指で示されて、思わず身に着けた袋を手でおさえた。
「なんせ墓をたてるんなら、名無しってわけにいかないだろ?」
「……どうりで名を呼ぶわけだ」
リオンの郷里では、名前はやたらに呼んではいけない。魔神に聞かれたらことだからだ。
しかし、それももう、かかわりのないこと。
「気やすすぎたか?」
やや心配げに相手が言うのを意外な気持ちで聞いた。
「そういうやつなんだろう、あんたは」
努めて平静に言ったつもりだったが、果たして表情が裏切っていた。思いっきり眉をひそめていたのだ。
「たぶんな」
青年が苦笑した。
リオンは一瞬、違和感をおぼえた。やけにしんみりとした声に顔をむけると、相手は肩をすくめる。リオンも視線をもとに戻した。
「呼びたいように呼べばいい」
「了解」
リオンもまたチャンプを呼び捨てにしてよい、ということだった。
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