「恐れ入ったよ。三日たたずに起き上がったのは初めて見たぜ」


 チャンプが再び肩を震わせている。


 リオンは乾いた唇を湿してたずねた。


「今日はいつだ」


「昨日だぜ、やりあったのは。それとも急いでいたか?」


「いや……」


 相手は簡単そうに答える。


 リオンは首をふった。


「しかしさすがだ」


「イヤミか」


 小さな机を拳で打つと、大げさに相手は飛びのいた。


「ストップ。感心してるのさ、もちろん」


 言いながら、青年はまたシガレットに火を着けた。


「飯がまずくなる」と言いかけたが黙って口に運んだ。すると、着けたばかりの火をもみ消して、青年が思い出したように言う。


「あとな、許してくれよな。身元証明っつのが見たくて中を確認させてもらった。悪気じゃねえんだから、な?」


 親指で示されて、思わず身に着けた袋を手でおさえた。


「なんせ墓をたてるんなら、名無しってわけにいかないだろ?」


「……どうりで名を呼ぶわけだ」


 リオンの郷里では、名前はやたらに呼んではいけない。魔神に聞かれたらことだからだ。


 しかし、それももう、かかわりのないこと。


「気やすすぎたか?」


 やや心配げに相手が言うのを意外な気持ちで聞いた。


「そういうやつなんだろう、あんたは」


 努めて平静に言ったつもりだったが、果たして表情が裏切っていた。思いっきり眉をひそめていたのだ。


「たぶんな」


 青年が苦笑した。


 リオンは一瞬、違和感をおぼえた。やけにしんみりとした声に顔をむけると、相手は肩をすくめる。リオンも視線をもとに戻した。


「呼びたいように呼べばいい」


「了解」


 リオンもまたチャンプを呼び捨てにしてよい、ということだった。

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