まなざしがちょっと小粋な青年だ。耳にシガレットをはさんでいる。


「おおい、チャンプがきたぞ」


 どこからかそう声がして、中にいた人の頭が軒並みそろってこちらを見た。


 仲間らしい男たちと手を打ちあわせて、青年がゆうゆうとして中へ入っていった。


 その様子はいかにも慣れている。


 こう言った場へなじみこめる性質というものが、どういうものかは考えなかった。


 物事には年季がものをいうことが多い。そこは敬意を表したいところだった。


 賭場のカウンターに陣取って、チャンプは水割りを頼んだ。そして仲間らしい男とふたことみこと言葉をかわすと、次はバーテンダーと話しこむようだ。


 背後で扉が閉まる音がしたので、リオンは飛び上がった。こうなるともはや引き返せないところへ来てしまった気がする。さりげない動きで扉を閉めたドレスの女が客席へゆく。


 リオンは思わずカウンターのはしに腰かけ、視線をさまよわせた。賭場というより、先の酒場と変わらない。落とした照明がいかにもそれらしいのを除いてだが。


 テーブルを囲む人々がいたるところで、薄暗い中、ひそかにカードをやりとりしている。


 そのときだ。店の奥でさかずきのわれる音がした。かと思うと、だみ声がきこえた。瞬間、周囲が殺気立つのが感じられた。

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