義足と義腕の勇者様
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第1話 プロローグ "勇者"
あるところに、''聖アリアトス''という大きな王国と、''ヴァリアバド''という魔王が支配する邪悪な国がありました。
その二つの国は激しく対立しており、
聖アリアトスの国王は度々勇者を中心として、魔法使い、武闘家、賢者の四人で構成された勇者一行を魔王討伐のために派遣していました。
ですが、魔王討伐も一筋縄にはいかず
その圧倒的な力の前に敗北し、パーティが全滅するという事態が続きました。
その内に、ヴァリアバドからの魔物の進行も日に日に激しくなっていきました。
そんな中、あるパーティがなんと魔王を討伐して帰ってきたというのです。
その報告を聞いた王様は直ぐにそのパーティを城に呼び出し、勲章と褒美を与えようとしました。
しかし、城に来たのは勇者だけ。それも左腕と右足の代わりに、武骨な鉄の左腕と右足をつけ、ボロボロになった灰色のマントを羽織った、一目では勇者とは思えない格好をしている男。
国王は怪しみました。この男は本当は勇者ではなく、ただの悪戯なのではないかと。
ですが、国王は男のこの世の地獄を見てきた様な顔と、淀んだ瞳を見て確信しました。
この男は勇者だと、本当に魔王を討ち取ってきたのだと。
国王は問いました。他の仲間はどうした、と。その腕とその脚はどうしたんだ、と。
すると、男はあっけらかんとした声で、淀んだ目のまま、ニコッと笑ってこう答えました。
「みーんな死んだよ。剣士のロイも魔法使いのアーネも賢者のカリネも。剣士は色々あって俺が殺した。なんでだっけ? 覚えてねーや。賢者はオークに捕まって強姦された挙げ句にミンチにされて死んだよ。俺達の目の前で。
そういやあいつ、ロイとデキてたみたいでさ。ロイはその後おかしくなっちまった。
いやー、何十匹もいるオークを全部細切れにしたのは凄かったなー。俺も手伝ったけど。でもあいつ、オーク皆殺しにした後は俺と
リザにも襲いかかってきてさ。
ああ思い出した、そんときに殺したんだ。
一発で首を落としてやったよ。スピードには自信あったんでね。苦しまねーよーにつってな。でもさ、切り落としたロイの頭をチラッと見たら、それがもー超こえー顔してんのよ。この世の全てを憎んだよーな顔。人ってさ、死ぬときは安らかな顔になるっていうけどデマだなありゃあ。
あんときは俺も泣いた……と言いたいところなんだけど、笑ってたらしいんだよね俺。
まるで魔物を倒したときみてーに。
狂ってたな俺、魔法使いは泣いてたってのに。辛かったろーな、こんな狂人と一緒にいて……」
王様は話の続きを聞くのを拒むように、もういい。と一言、震えた声で言いました。
ですが、勇者は「いや、ダメだ。ちゃん聞いてくれよ。いいだろ別に。魔王はもう殺したんだし」と冷たい声で言い放ち、話を続けました。王様の顔はもはや驚愕を通り越し、まさに顔面蒼白というようになっていました。
「それで、残ったのは俺とアーネ。
俺達はひたすら魔王に向けて突き進んだ。
とはいっても、もう俺もアーネも心も体もボロボロだから、魔王の城に向かう途中にある村を襲ったりして水や食料を奪ってな。もちろん、エルフとかの好戦的じゃない奴等の村。正気じゃないってか?正気だったらもう死んでるよ。
でも、やっぱり好戦的じゃないっつっても一応戦える奴はいるわけ。
そんなことを続けてたらさすがに疲れるわけで、俺とアーネは一回倒れた。
そんときゃもう死ぬんだなと思ったけどなんでか知らんが俺とアーネは生きてた。
神様ってやつは随分狂った奴だよな。
俺なんかを生かすなんてよ。
俺達は、あろうことか今まで散々ぶっ殺してきた魔物に助けられたんだ、確かエルフだったっけ。
それがみーんな俺達と似たような顔しててな。
それも美男美女ばっかで、楽園だったね。
でもさ、看病してもらってどんだけ美男美女ばっかでも、魔物は魔物。
ぶっ殺さなくちゃいけない。
看病してもらった後で、他の村と同じようにみんな殺して食料を奪ったよ。
言葉はわかんないけど、俺を看病してくれた女……いや、雌かな、雌のエルフはきっと殺してやるって言ってたと思うよ。まぁ、当たり前だよな。
まぁ、そんなこんなで魔王の城について魔王と対峙したんだよ。
あのプレッシャーは凄かったね。
多分、正気だったらチビってたかも。
でもビビってちゃいられない。そうだろ?あんなに犠牲をだしてここまで来たんだから。
回復魔法しか使えないアーネを後ろに下がらせて、俺はひたすら魔王に突っ込んで切りまくった。
強かった、強かったよ、魔王は。
圧倒的だった。もう……なんかね。
何回も諦めそうになったよ。
でも、アーネの必死のサポートもあってなんとか魔王を後一撃で倒せるところまで追い詰めた。
油断してた、本当に。魔王は最後の力を振り絞って最大級の一撃を放ったんだ。
その攻撃で、俺の左腕と右足が吹き飛んでさ、アーネは腹を貫かれて風穴が空いてた。
魔王はその後すぐに死んだけど、俺達の痛みは消えない。
アーネなんかもう虫の息でさ。
死にかけてるくせに、俺にささやくんだ。「大好きだったよ。ありがとう……」
って。そして、アーネは何かの魔法の詠唱をして、その後俺は光に包まれた。
うっすらとした緑色で、温かい光だったかな。
それで、目が覚めたらこの王国の入り口に倒れてた。アーネはいなかった。
でも、吹き飛んだはずの腕と脚がついてた。こんな武骨な鉄のやつだけどな。
それで、すぐにわかったよ。あいつは俺に転移魔法をかけるのと一緒に
自分の体をこの義手と義足にしたんだ。
魔法でなにかを生み出すときってのは確か等価交換だろ?あいつは自分の体をこの鉄の義手と義足に交換したんだ。
バカな奴だよ、あいつは。自分に回復魔法をかけりゃにげることだってできたのにさ……。
でも、あいつは……本当に良い女だったよ。
そんなこんなで、俺は今あいつらの屍の上に立ってるって訳さ……全く…情けねぇよなぁ…」
その問いに、王様は答えませんでした。
ただ、青ざめた顔で、
「よく……やってくれた。褒美を出そう。勲章も……」と震えた声で小さくそう言うだけでした。
勇者は、「褒美ね…ああそうだ、あいつらの墓を立ててくれ。目一杯派手にしてな。
勲章はいらねー。そんなもん必要ない」
さっきとは打って変わって、冷ややかにそう言うと、王様に背を向けて、出口に向けて歩きだしました。
最後に、王様が「どこへいくのだ……」と問うと、 勇者は「最高の死に場所を探しにいく」とだけ答え、王室を出ていきました。
全てを失った彼は、どこへ行くというのでしょうか。死にに行くのか、はたまた、これからの人生を謳歌するのか。
彼が背負った呪縛は、きっと、そう簡単に取り払えるものではないのでしょう……
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