槍使いの剣聖

にゃむにゃむ

第1話 凄腕の傭兵

 俺っちの名は カイム・サーガルウス。フリーランスの傭兵だ。

 俺っちの種族は『魔人』。魔力に優れた『魔族』と『人族』のハーフだ。長命の種族である『魔族』の血を引くため、当年とって456歳。この傭兵の世界においては結構なベテランだ。

 

 報酬さえ貰えるなら、どんな戦場にもおもむくバトルジャンキーでもある。今日も俺っちの手腕を求め、この辺境の地である、ホークウッド村への依頼者が引っ切り無しだ。


 俺っちの主武器は『槍』、銘は無ぇ。懇意にしていたとある鍛冶職人の遺作にあたる。『ミスリル銀』の柄に『アダマンタイト』の穂先を備えた、大木をも貫き通す豪壮無比な逸品だ。腰には製法の氏素性の全てが一切わからん異世界の『刀』と呼ばれるモノを差している。こいつぁこの世界のどんな刃物と比べても、切れ味が尋常ならざる程に高ぇ。切れ味が高ぇんで重宝してるんだが、再度入手不可能なもんだからメインが槍っつ~訳だ。この刀の銘は『肥後州同田抜』。俺っちの武術の師匠の形見にもあたる。その切れ味は頑丈さに重きを置いた、実戦向けのシロモノらしい。頑丈さに重きを置いてるとはいえその切れ味は、この世界に現存する数多の刀剣類よりも群を抜いて高ぇ。そのおかげか世間一般様の俺っちへの評価じゃぁ、師匠譲りの刀術により『剣聖』の名をもらっちまってる。まぁ、ぶっちゃけた話、この『肥後州同田抜』と師匠の残した名声が独り歩きした結果が、『剣聖』の実態なんだよなぁ。俺のエモノは槍だし・・・・・・。


 そんな俺っちは人気のある傭兵だ。今日も依頼が向こうから飛び込んできやがる。全く、忙しい日々だぜぇっ!

 






「おぉ~ぃ、何でも屋のぉ! オレッチの裏のドブが詰まっちまってなぁ~。まぁたドブさらいを頼みてぃんだが?」


 彼は村のはずれにある木工所の親方だ。名前は・・・・・・なんだったっけか? いや、覚えてないわけじゃねぇ。ちぃとド忘れしただけだ。そう、喉元まで出かかってるんだがよぉ・・・・・・。

 俺っちは気づかれぬように営業用のスマイルを浮かべて対応する。


「あ、いつもお世話になります! お仕事の依頼ですね? 承りました。報酬は例の額で宜しいでしょうか?」

「あぁ、急ぃでぃ頼むぜっ! 職業柄ドブが詰まりやすぐてよぉ。すまにぃな」

「親方の所は、木工所ですもんねぇ。木屑とか掃除してもしきれるモノじゃないですし」

「まぁ、そう言うごった。そんなわげなんでヨロスグ頼むわ!」

「了解ですっ!」


 ふぅ、今日も俺っちの手腕を求めて緊急の依頼が舞い込む。ははっ、売れっ子は辛いね。


「あら、何でも屋さん、こんにちは」

「あ、ジャンヌさん、こんにちは!」


 彼女は魔大陸では見慣れた『魔族』。『魔族』の中でも特に魔力に優れるという『龍魔族』のジャンヌ・サーズガルド。見た目は、水牛の様に太く湾曲した角と、根元が野太いトカゲのようなしなやかな尻尾の生えたノホホンとした黒髪ロングヘアのお姉さんだが、その見た目とは違い凄腕の魔法使いだ。

 この世界には魔法を扱う者として、『魔法使い』と『魔術師』が存在している。

 魔法使いと魔術師は似てるようで違う。魔法使いとはオリジナルの魔法を創造できる者、魔術師は既存の魔法を覚えて行使できる者。二者は似てるが、その実力は根底から違う。ちなみに当年とって754歳。歳を追及した奴が消し炭にされたという逸話には事欠かない。その辺りの醜聞が多いため、この辺境の地に移住を余儀なくされたんだともっぱらの噂である。え? なぜ歳が判るのかって? 旦那さんに聞いたからだよ。


「いつもご苦労様。あ、煮物を作りすぎて余っちゃったんだけど・・・・・・どうかしら?」


 見ると、彼女の背後には巨大な寸胴鍋が魔法で浮いている。

 毎回思うが作りすぎのレベルじゃねぇよ! この人は・・・・・・いや、言うまい。いや、心にも思い浮かべまい。妙に鋭いから心を読まれかねん。っつか、読心系の魔法が使えるんじゃねぇかってくらい勘が鋭いからな、この人は。だがそんな魔法は存在しない・・・・・・存在しないはずだが、オリジナル魔法の可能性もあるから否定できないのがつらいところだ。


「あ、頂きます! ジャンヌさんの料理は美味しいですから!」

「んもぅ! お世辞なんか言っても何も出ないわよ?」

 

 ジャンヌさんが寸胴鍋を、俺っちに押し付けながら照れている。

 そのしぐさはとても可愛いらしく守ってやりたくなる。だがあれは地雷だ! あれに手を出すってことは、魔王の逆鱗に触れるとか、龍の巣穴から卵を盗み出すのと同義だ。耐えろ俺、耐えろ俺っちの表情筋! そんなそぶりすら出すことなくこの場を乗り切るのだぁっ!


「いえいえ、お世辞ではなく本当に美味しいですから!」

「本当に元気で可愛いわねぇ・・・・・・ねぇ、本当にうちの子にならないかしら?」

「いえ、私が旦那さんに殺されますからっ!」


 かなり以前から『うちの子にならないか?』と誘われてはいる。

 だが、からかわれてるのか、本気なのか、いまいち良く判らねぇ。ただ、彼女の夫は凄まじいヤキモチ焼きだ。触らぬ魔神になんとやら・・・・・・だ。

 いや、マジな話、彼女の夫は先々代の魔王。半端ねぇ実力者だ。そして、夫婦そろっての魔法系。その火力はすさまじく、夫婦揃うと魔大陸を焼き尽くすってぇ話だ。だが、一対一で接近戦にさえ持ちこみゃぁ仕留める自信はある。あるんだが、ジャンヌさんの支援が入った瞬間に勝ち目は無くなる。

 あれは見た目は良いが地雷だ、噴火口だ、耐えろ俺っち、悪魔のささやきに耳を貸すな俺ぇぇぇぇぇぇっ!


「んじゃ、私は行くわね~。お仕事がんばってねぇ~ん」

「ありがとうございます! 器は洗って返しに行きますね!」


 ふぅ、何とか乗り切ったぜ。悪い人じゃ無ぇんだが・・・・・・彼女の旦那は危険すぎる。流石の俺っちも正面から対峙するのは避けてぇからな。


「あ、何でも屋のおじちゃん。こんにちは。飴ちゃんあげる」


 目の前の子供は『狼人族』。名前はイリヤ、犬耳と尻尾の女の子。年は5歳。俺っちが親しくいる近所の子供だ。


「お? ありがとう。仕事の依頼かな?」

「うん。頭を撫でて~」


 どんな形であれ仕事は仕事。毎日の積み重ねが次の仕事へと繋がるのだ。

 子供のころから俺っちに依頼する習慣が付けば、大人になってもその習慣は続く。そう、これは先行投資なのだ!


 俺っちは手に持った寸胴鍋を地面に下ろし、出来る限り優しく、犬耳の付け根をコリコリ、クニクニと揉むように頭を撫でてやった。


「んふ~」


 頭を優しく撫でてやると、イリヤは目を細めてされるがままだ。

 この子のサラリとした髪とコリコリとした犬耳のなんと触り心地の良い事か。しばらく無心になってナデナデをする。

 この手の依頼ならいつでもなん時でもドンとこいよ!


 一人を撫でると、ボクもアタシもと子供たちが群がってくる。はっ、人気者はつらいね・・・・・・。



 え? ちょっ! まっ! 痛い痛い痛いっ! 爪を立てて背をよじ登ってくるのは誰だっ? ひぐっ! 鼻に指を入れてるのは誰や~っ! ちょっ! 人数多い! 重い重い無理無理無理無理ぃぃっ! あ~、ダメダメッ! 素手で鍋の中身をすくって食べちゃダメ~!!


 お、俺っちの名は、カイム・サーガルウス。フリーランスで凄腕の傭兵だ!


「あらあら、何でも屋さんったら、今日もモテモテね」


 近所のおばちゃん連中の声が耳に届くが、そっちに視線を向ける余裕も無ぇ!

 今は、この過酷な戦場を乗り切る事が最優先なのだ!

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