第玖話:地下への試練

私達はハナコさんから言われたマンホールを見つけるために小学校を目指していた。そこで私はユカリちゃんに疑問を投げかけた。

「ユカリちゃんは……学校行ってないの?」

「……別にそんなことないよ。行ってる」

 ユカリちゃんはあまり詳しくは答えてくれなかった。ただ、行ってるとだけしか言わなかった。


 しばらく歩いていると、小学校が見えてきた。私が普段行っている学校とは少し形が違うように感じた。校門の前には言われたようにマンホールが在った。ただ、私達には大きな問題が生じていた。

「これ、どうやって開けるの?」

「んー……そうだね。これ開けるには本来、専用の道具が必要なんだけど……アイツに頼むしかないかな」

「誰?」

「前にさ、ヨシコと会話してた時に、ナオコって名前が出たの覚えてる?あいつの力なら、これも開けられる筈だよ」

 そういうと、ユカリちゃんはきょろきょろと何かを探し始めた。すると、目当ての物を見つけたらしく、そっちの方へ歩いていった。

 そこにあったのは公衆電話で、ユカリちゃんはポケットから小銭を取り出すと、どこかに電話をかけ始めた。

「……あ、もしもし?ナオコ?今どこにいるの?ヨシコの側に居てって言ったよね?」

「……は?知り合い?…………あぁいたの。じゃあさ、君の用事が済んだんなら、こっち来てくれない?ちょっと手を借りたいんだよ」

「うん……そう。……分かった。待ってるよ」

 会話を終えたユカリちゃんは電話ボックスから出てくると、私に言った。

「すぐに来るってさ」


 それから1分程経っただろうか。突然、目の前に赤いマントの様な物が現れ、その裏から一人の女性が出てきた。

 女性は私から見て左側の髪が黒色で、右側が赤という変わった髪色をしていた。その背中には先程のマントを羽織っており、全体的に大人っぽい印象を受けた。

「ん、来たか」

「どういう用件?私を呼んだんだから、それ程のことなんだよね?」

「うん。小学校前にさ、マンホールあるじゃん?あれをさ、退けて欲しいんだよね」

「は?それだけのために呼んだの?……ていうか、その子は?」

「この子はサエ。こっちの世界に迷い込んできたみたい。まあそれはそれとして、早く開けてよ」

「……この子を返す方を優先した方が良いんじゃないの?」

「そうは言うけど、由紀がいないとどうにもならないよ。帰すにしても私の手には負えない」

 何か、今凄いことを聞いたような……。由紀さんがいないと私、帰れないの?


 ナオコさんはマンホールの前に立つと、何か唱えだした。

「……我らが一座に伝わる盟約を下に、我に力を与えたまえ」

 そう言ってナオコさんがマントをマンホールに被せ、横に大きく払うと、マンホールが消えていた。まるでマジックの様だった。

「さ……開いたよ」

「ん、ありがと」

「他に用事ある?」

「んや、無いかな。ナオコも用事が無いんなら、家に帰ったほうがいいよ。……何かこの町、前よりも暗闇が増えてる気がするし」

「そう。じゃあそうする。由紀のこと頼むよ」

「んー、任せろー」

 会話を済ませるとナオコさんはマントを翻し、そのままマントの裏に隠れる様にして姿を消してしまった。


 下水道に降りた私達は学校方面に進んでいった。下水の中は外よりは明るかったものの、悪臭がきつく、呼吸をするのも辛いほどだった。

 少し進んでいくと、目の前に見慣れた姿があった。何故かハラエさんがいたのだ。

「あっ!サエちゃん!ユカリちゃん!」

「ん?ハラエ?何やってんの?」

「いや、実は……その、ちょっとマズイものが……」

「何……?何かいるの?」

「うん……。今、ミズキちゃんと一緒に戦ってるから、ここから……離れて?」

 二人が話していると、下水の中からダイバースーツを着た少女が飛び出してきた。

「ミ、ミズキちゃん!大丈夫!?」

「……相手、大きい、危ない」

 一体何がいるのか分からず、不安に感じていると、突然地面が大きく揺れ始めた。

「じ、地震!?」

「……違う、ここ、いる、鯰様」

 突如、下水の中から大きな鯰が顔を出した。

 鯰は私達をその大きな目で見つめると、大きな声で吼え、地面を大きく揺らした。

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