第16話「宿敵」

 カツ、カツ、カツ。


 SEは一歩ずつ慎重な足取りで、通路を進んで行った。


「あれは……」


 使用人数人が倒れる中、ブツブツと独り言を言いながら一人たたずむ男がいた。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


 その男の目には全く意識というものが感じ取れず、まるで人形のガラスの目玉のようだった。


「…………」


 SEは覚悟を決めるように一度目をつぶり、数秒後ゆっくりと目を開けた。


 ギンッ!


 SEの瞳には一点の迷いもなく、その男、鳴を見つめた。


「バキッ! ビリビリ! 行くぞ。鳴」


 SEはゆっくりと距離を詰めて行く。


 鳴の射程にSEが入ると、


 ミシミシッ。


 筋肉が悲鳴をあげるほど限界の力で鳴は右拳を繰り出した。


 SEは力に逆らわず、鳴の腕の内側に添うように左の掌を当てた。


 バキッ!


 鳴の腕は変な方向に折れ曲がり、拳はSEに当たることなく、確実に骨は折れていた。


「これでどうですか!」


 ビリビリ!


 首すじに手を置くと、鳴はまるで雷に打たれたかのように小刻みに震えた。


 バッ! ガシッ!


 しかし鳴は動きを止めることは無く、折れているはずの腕でSEの左腕を掴んだ。


 ポーン! バキッ!


「しまっ! ぐぅ!」


 掴まれていた腕は鳴と同じように折れ曲がった。


 ガスッ!


 SEは鳴を蹴飛ばし一旦距離をとった。


「流石だな。あの程度では動きを止めることもできないなんてね。しかも、わざわざ、右手は掴まれないよう右の方の首筋に当てていたのに、折れている方の手を使うなんて」


 危機的状況であるにもかまわずSEは笑っていた。


「さて、少し厳しい状況なので、無理してみますかッ!」


 喋りながらSEはさらに距離をとった。


 距離がある程度開いたその時、


「うああああああああああああああああああああああああ!」


 バンッ!


 鳴が叫び声をあげながら、床を破壊する勢いでSEに突進を仕掛けてくる。


 やっていることは今までの使用人たちと変わらないが、鳴の類い稀なる筋力により全く別ものの攻撃に見える。


「ゴキッ!」


 SEは凄まじい突進に臆することなく、自ら前に飛び出し、完全にパワーが乗る前に鳴の膝に触れた。


 ゴキッ!


 骨が外れる音がし、鳴はバランスを崩し、その勢いのまま派手に、ドスンッ! と倒れた。


「間一髪。タイミングが合いました。では、ドッドッドッドッ、バ~~ン!」


 鳴の頭に触れると、


 ドッドッドッドッ、バ~~ン!


 麗子のときに現れた死神のようなものが姿を見せた。


「ザンッ!」


 ザンッ!


 死神のようなものは現れてから一瞬でその身を切られ消えていった。


「ふう、響や鳴みたいに一回で消せればここまで鳴に傷を負わせる必要はなかったんだが。まぁ、最後の一撃は自爆だし許せ」


 すでに鳴に意識はないのだが、SEは鳴に向かって謝った。

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