ティータイム
ノブ
■
「わたし、緑茶は好みじゃないんだけど」
ぽかぽかと暖かい午後の昼下がり。目の前の彼女がうんざりしたような顔でつぶやいた。
「僕だって紅茶なんか好きじゃないよ」
緑茶をバカにした仕返しだ。そう吐き捨てると彼女は
「なんだとこの野郎。わたしの好きな紅茶をバカにしやがって、ふざけんじゃねーぞ」
と言わんばかりの顔で僕をにらんできた。
「だって、あきらかに君のほうが紅茶って感じじゃないか。僕は緑茶のほうが好きだ」
きわめて客観的な事実として彼女にそう伝える。明らかに、洋風な雰囲気の彼女のほうが紅茶にピッタリだ。
「……そ、そうよ! 緑茶とか和風な感じのあなたのほうがお似合いだし! なんでわたしが紅茶じゃないのよ」
少しばかりほおを赤くした彼女がそっぽを向く。出窓から入ってきたおだやかな風がカーテンを揺らしていた。
しかしながら本当に、なんで僕たちはいつもお互いのイメージと逆の飲み物ばかりにされるのだろうか。
「それでも結局、緑茶……無くなっちゃったみたいかな」
変わらず不機嫌そうに、目を伏せながら彼女がつぶやいた。
「僕のほうも紅茶、飲んじゃったみたいだな……」
微妙に彼女のマネをしながら、僕もわざと不機嫌そうにそう言ってみる。
しかし我らが主たちは、本当に飲み物のチョイスに限っては感覚が変わっていると思う。
そうしている間にも、館の給仕たちが続々と新しい飲み物を持ってくる。
主たちは、次はどんな飲み物を僕たちに与えてくれるのだろうか。
「休んでる暇がないわね。ほら、次の飲み物が来たわよ……って」
運ばれてきた、良い香りのするその液体を目の前にした彼女が叫ぶ。
「今度は味噌汁とか、なに考えてるのよおおおおおおお!」
「僕は味噌汁のほうが良かったなぁ……」
シチューを注がれる湯のみの僕に向かって、ピシッとヒビが入らんばかりの形相でティーカップの彼女がにらんできた。
明らかに、洋風な雰囲気の彼女のほうがホワイトシチューにピッタリだ。
ティータイム ノブ @nobusnow198211
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます