目を覚ますと教室で裸だった私の冒険

柳人人人(やなぎ・ひとみ)

7:20「目覚め」

 目が覚めると、私は裸だった。


(まっぱっぱー………? ……………………えっ?!)


 朝特有の朗らかな光が差しこむだれもいない教室。その木目調の床に、私は服を身につけず横たわっていた。

 体を起こす、という一挙一動だけでひんやりとした微風が局部から全身に抜ける。


 裸体。まごうことなき裸体。そう言って差し支えない姿だった。ただ、なぜかニーソックスと学校用の上履き、あと腕時計だけは身につけていた。


 なんで、どうして、意味がわからない! 頭のなかで叫んでも、こうなった経緯に覚えもなければ、だれかが説明してくれることもなかった。


(……ん、んんん?)


 ニーソックスと太もものあいだに紙の切れ端が挟まっている。手に取ってみるとこう文字が書かれていた。


『保健室へ。キミの服はそこにある。』


 握る手が汗ばむ。この状況はだれかの悪意が招いたのだ。そう判断するしかない。全身を包む非現実的な感覚が色濃く現実に刻まれていく。鈍い痛みが頭に走っていく。


「ふぁい、おー。ふぁい、おー!」


 思考停止は束の間。どこからともなく聞こえる運動部特有の掛け声が、自分以外だれもいない教室にまで響く。思考よりさきに焦燥感が爪先から頭の天辺までいっきに蝕んだ。


 今分かっていることはただ一つ。この姿をだれかに見られたらマズイということだ。場合によっては社会的に死に、物理的にも死を選びかねない。


 まず自分の体を触って確かめる。……どうやら、服を剥かれたほかになにかされた形跡はなかった。軽く安堵の息を落として周りを見渡す。見覚えのある教室―――薄々感じていたが、私の通う中学校のそれと瓜二つだった。最後に腕時計を見る。『7:20』。あと一時間ちょっとでホームルームと授業が始まる。たくさんの生徒たちが学校、そしてこの教室にも集まってくる。


 そうなるまえにこの状況から脱出しなければならない。


 両手で上下ともに大切な部分を隠し、自然と音を忍ばせるように爪先立ちになりながら、窓のほうへ向かう。そこから顔だけ出して外を一望した。


(ここは……)


 そこからの景色は何度も目にしたことがあるもので、自分のいる位置がどこなのかはすぐに理解できた。だけど、いや、だからこそ眩暈がする。毛穴からとめどなく熱が吹きだしてたまらない。どうしようもなく、窓の隙間風が私の体にささやく。その吐息はまるで悪魔のせせら笑いだった。


 ここは、3-D教室。最上階である三階東棟の角部屋であり、私のクラスでもあった。対して保健室は西棟一階の角部屋だ。ここから一番遠い位置関係にある。


 最悪だった。

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