冬源郷の果糖のジュース
眠る乃符時個
第1話初雪
これは初雪が降りそれが赤子の生えたての乳歯のようにカチカチの頃に始まる、つまりは俺が高校生の頃の冬の話だ。
その日はいつも通り学校へ向かおうと俺の家の玄関の靴箱からこげ茶色のローファーを出し、それを靴べらを使って足に合わせながら外へ向かう準備をしていた。
音も無く昨夜降った雪が五cm程、路面に雪化粧をし、カチコチに固まったそれはまるで初雪じゃないみたいだった。
俺は外に出てそれを確かめるようにローファーのつま先でカツカツと路面を蹴り立てていた。
「おはよう藤子くん」路面から顔を上げると幼馴染で同じクラス(偶然なことに小学生の頃からクラスは同じだった)の女子、林原薫風がいた。ハーハーと吐く息が白く両手に付けたモコモコした手袋を口の周りに当てるとクスリと笑った。
「おはよう、薫風。今日は大事な話があるんだ。学校の帰り少し待ってくれないか?」俺はそう言うとズボンのポケットに両手を突っ込んだ。
それに対し目を細め、ニッコリ笑うと薫風は「分かった」と言った。
それから二人して学校への道を歩いて行く。白い雪はやはりカチコチで時折滑りそうになる。その度に大丈夫?と薫風に言われ、俺は少々赤面する。少し恥ずかしかったのだ。
「ねえ、大事な話ってもしかして・・・」と歩きながら薫風が言う。
「もしかして・・・?」俺はその答えを知っているため、少々不安になる。冬に走る蒸気機関車のように頭に熱が上り深呼吸するとやはり吐く息は白くかじかんだ両手を吐く息につけるとほんのり暖かかった。
「もしかして、私に告白とか?」目を普段より大きく開き、薫風が言う。その瞳は汚れのない12月の路上で氷晶となったように僕の胸に先の尖った氷柱のように突き刺さる。
「いや、あの、その・・・」図星だった。
薫風は顔を赤くし「いや」と高い声で言い「じゃあ学校終わったら話してね」と嬉しそうに言う。
これはまさか、OKが出るんじゃないか?俺はそう思った。
パリパリと土の上にある霜が音を立てて俺の足に踏み潰された。
その音と関係あるのか無いのか、俺の心臓はバクバクと鳴っていた。緊張するのとは違う(少しは緊張しているのだろうが)恋のリズムを持った鼓動だった。
それから俺達は今日のお弁当の話とか、今朝の朝食の話をしながら校内へと入っていった。
校内は多くの生徒が中に入っていったせいで雪が擦れて溶けていた。シャーベット状になったそれを俺は手にとってみたが薫風は不思議そうにそれを見て、俺はそれを握りしめて更に硬くして遠くの誰もいない方へ投げ捨てた。
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