清潔、無個性、無痛、無常

叫骨(キョウコツ)

配属届

カシャッ


後ろでいつも聞こえる鍵のしまる音。

毎度のことだが、慣れるということは無い。


清潔な部屋、と言うよりも無機質極まりない。

白いリノリウムの床、薄いグリーンの壁、グレイの机、

やけに座りの良い椅子。

まるで、ごく普通の病院の診察室。

むしろ、診察室よりも清潔だろう。

それ以外あるのは、机の上に置かれた呼び鈴だけだ。

目の前に保護用の映画でよく出てくるような、

あのプラスチックの仕切りなどない。

ここは、面会室ではなく、カウンセリングの部屋なのだ。


私はカウンセラーだ。

このあくまで矯正所と呼ばれる、施設のカウンセラー。

この施設から出るのは死体だけ。

ここに居るのは、死刑囚、または無期懲役囚だけ。

彼ら最後の施設だ。

もし、ここがそんな場所だと住人に知られたら、

明日にでも反対運動が一斉に始まるだろう。

監獄でも、収容所でも、刑務所ですらない。

ここはあくまでも表向きは【矯正所】なのだ。

入所者が連続殺人犯、委託殺人犯であるだけだ。


さて、そんな人間達に私は何を伝えられるだろうか?

ここを出られることがありえ無い事は

彼ら自身が一番よく知っている。

だからこそ、上訴の手紙をありとあらゆる司法機関、教会、

人権団体、果ては被害者の家族にまで送り続ける。

「神様、私は後悔しています。全てをやり直したいんです」

まあ、バリエーションはいくつかあるが、大抵はコレだ。


私と言えば、前任者からのアドバイスはたった一言

「考えるな従え」

と丁寧に書かれたメモがここへの配属届と合わせて渡された。

前任者がどうなったのかは聞く気にもなれなかった。

配属届を渡してくれた事務員の眼を合わせないそぶりから

十分に分かったし、前任者の名前もリストから無くなっていた。

まさに壊れた機械の補充か、コピー機のトナーの様に。


そして、私は少しずつ自分のノウハウをこうやって書き留めておこう。

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