朔日の雨

発条璃々

第1話

「トウヤさん……今日も雨ね」

 縁側で庭を見てはいつもと変わらぬ平淡な表情でそう、シヲリは呟いた。

 この長雨はもう二週間も降っている。梅雨という訳ではないのに、異常に降る雨と曇り空に不安が翳る。

「知ってる? こういう雨って、『淫雨』っていうそうよ。淫した雨……なんて私にぴったりだわ。私も雨に淫してる」

 そう語りながら、庭に向けていた顔を俺に向けた。拍子に艶やかな黒髪が鎖骨に掛かる。唇にもくわえるように張り付いている。

 湿度が高い所為か、全体的に汗ばんでいるシヲリの肌は透けてみえた。純白のワンピースはシヲリの肌の白さを際立たせている。

「トウヤさん、今日は無口なのね……いつもかしら。それとも私が美人だから見惚れちゃった?」

 目を細め手を口元に添えて優しく微笑を浮かべる。俺は、唇に張り付いた髪の毛を取り払おうと手を伸ばした。

 だがシヲリはその手を掴んだかと思うと引っ張り、ふたりは冷たい廊下に倒れた。

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