第3話:ある転生者の出陣

 一つ本当の吉報が見つかった。

「魔王テルシオ対策室」が立ち上げられてから、室長になった私の元には各地の勇者パーティーから情報が入ってくる。部下たちは魔王テルシオの詳細ばかり気にしていたが、私は魔王がいない地方の動向からも目を離さなかった。

 そして、私が開発したテルシオと呼べる陣形が、魔王軍には一つしかないことに確信を持った。

 唯一のテルシオは魔王本人が指揮しているのだろう。そして、魔王以外の魔物には、テルシオを率いることができない。きっと魔物の種を超えて、高度に統一した指揮をとれるのは魔王だけなのだ。

 魔物は種族によって技能がひどく限定されるから、同じ種族だけ集まってテルシオもどきを作っても本当のテルシオとは言えない。ただ「集団攻撃魔法」で吹き飛ばされやすい群になるだけだ。

 それに比べて人間はたった一種類なのに、なんと多彩な技能をもっていることか!


 しかし、魔王テルシオそのものの続報は楽観を許さない。複数のテルシオが作れない代わりに、魔王テルシオは肥大化していく傾向にあった。

 テルシオに所属する魔物も最初は魔王城やその周辺の魔物ばかりだったのに、いつのまにかもっと広い範囲から集められるように変化していた。元魔王城のひきこもりとして、上から目線で他のダンジョンのひきこもりを引っ張り出したのか。迷惑な。

 魔王が余計なことをしてくれたおかげで魔王テルシオは鉄壁さを増しつつある。純粋な戦闘能力では魔王城や周辺の魔物が上でも、奴らにはない性質をもった魔物が加われば、さらに弱点を補うからだ。あたかも耳のいい草食動物と目のいい草食動物が一緒の群をつくって肉食動物の接近を互いに知らせ合うように。


 また、魔物はそれぞれ攻撃魔法が無効な属性をもっていたりする。そのため大威力の集団攻撃魔法をもってしても一発では魔王テルシオの中には無傷な集団が残る。ところが人類側はよほど特殊な装備がなければ、攻撃魔法の無効化まではできないし、そんな装備は数が揃わない。魔王テルシオとやりあうには人類側も相当の損害を覚悟しなければならなかった。

 勇者と名付けた鉄砲玉を四人ばかり魔王城に送り込んで、帰ってこなかったら残念とは訳が違うのだ(それも酷い話だが)。



 自分のちょっとした実験がずいぶんと大変なことを起こしてしまった。状況を知れば知るほど躊躇いが増えてしまう。少しでも犠牲を減らすためにもっと作戦を練りたいが、魔王テルシオの強化をみれば、その時間も私たちには残されていない。

 不完全な情報と作戦で、我々はルビコン河を渡ることを決意した。


 せめてもの癒しは決戦前に、魔王テルシオに参加しそうな各地の魔物を自分の目で知るために、アリアさんをふくむ四人パーティーでパック旅行並のあわただしい冒険ができたことだ。

 私は自分の職業を僧侶にした。テルシオを指揮するなら「集団回復魔法」が使えれば理想的だからだ。とりあえず冒険中は高位の聖職者と互いに回復魔法をかけあうことで、魔物の能力をじっくり観察できた――そして、この世界の衣服は頑丈すぎることが分かった。また、私は何とか「集団回復魔法セレナイト」を会得した。

 他の仲間は逃げ道を見つけるのが得意な盗賊と、荷物の梱包上手で多くの回復アイテムを持てる商人だった。

 これはかなり異色のパーティーだった。でも、彼らとの冒険が魔王テルシオと戦う方法のヒントになった。



 人類がテルシオごと魔王を倒すために動員した人材は未曾有の質と量を誇る。誰でも名前を聞いたことのある超一流の勇者が三人もいる。

 町の住民に話しかけたら、いきなり名前をあげたり、未知のダンジョンに踏み込んでみれば先に宝箱を開けたりしているような連中だ。

 見方を変えれば彼らですら自分のパーティー単独では魔王テルシオを破れないと判断したわけだ。


 三人の中で「集団強火攻撃魔法パイロープ」など火の魔法が得意な勇者のパーティーには人類テルシオの先頭に立ってもらう。

 最初の演習時、哨戒パーティーの六角形は辺を前方に向けていた。その方が二つのパーティーで対処できて負担が減ると考えたのだが、魔物が辺の中点に入り込んできた場合に担当するパーティーの判断ができず、本陣まで攻め込まれてしまうアクシデントが起こった。

 そのときは本陣にいた勇者パーティーが対応して事なきをえたが、以後のテルシオは六角形の頂点を前方に向けて、一つのパーティーが真正面の敵に対応する形に変化した。

 この過酷なポジションを勇者たちは「死番」と呼んでいた。本陣の気配が魔物を吸い込むので、ふつうに少人数パーティーで平原を行くよりも敵との遭遇率が高くなってしまうのだ。もちろん交代のある役割だから「死番」が一方的にリスクを押しつけられているわけではない。

 ただし、今回の戦いに当たっては火の勇者パーティーに交代なしの「死番」を務めてもらう。しかも、今回は最初の演習時みたい前方に辺を向け、その辺との正三角形の頂点をなす位置に突出させた特別なポジションだった。「超死番」とでも言おうか。本陣からは五百二十メートルほど前方になる。

 「超死番」により早期の警戒や敵陣を切り裂く効果が期待できる一方、消耗も非常に大きくなると予想された。火の勇者といえども魔王テルシオの本陣に到達する前に、力を使い果たす恐れが高い。

 それでも火の勇者が損な役目を引き受けたのは、彼女の故郷が魔王テルシオの拡大する行動範囲に入り始めているからだった。


 他の二人の勇者は、それぞれ雷と氷の魔法を得意としていた。揃って私のテルシオより後方、三百メートルあたりに待機してもらう。彼らは本陣の後方を警戒する哨戒パーティーとも違う。

 なぜなら今回の人類テルシオは六つあって、それがまた一つの六角形のフォーメーションをなしているからだ。超一流の勇者たちはテルシオの中に守られた状態になる。彼らこそ最終的に孤立させた魔王を倒すための必殺の刃である。

 他にも有力な勇者パーティーが三十組ばかり、先頭を行く私のテルシオのすぐ後ろを追尾する。彼らの役目は遊撃隊だ。


 つまり作戦はこうだ。最前線を行く火の勇者パーティーが、魔王テルシオの哨戒パーティーと遭遇したら、派手に炎の魔法をぶっ放す(おそらく通常では遭わない魔物に遭遇するので分かるはずだ)。

 それを確認しだい、遊撃隊のパーティーを間断的に「超死番」の左右を大きく迂回させて送り込む。遊撃パーティーは敵の哨戒パーティーを排除し、魔王テルシオに接近できたら「集団攻撃魔法」で攻撃、すぐに離脱する。

 このヒットアンドアウェイをできるだけ繰り返して魔王テルシオの本陣を削る。敵があわてて同じ作戦を使ってきても、こちらの本陣は通常よりも深い位置にあるので空振りする寸法だ、すべてが上手く行けば。

 後はこちらの本陣で消耗した魔王の本陣にトドメを刺し、魔王が出てきたら温存した二組の勇者パーティーに出てもらう。魔王の体力も削れれば理想的だが、最後は彼らの戦闘力が頼りだ。


 ちなみに上空は王国の一つが虎の子にしていた翼虎部隊に守ってもらえることになった。贅沢をいえば偵察もやってもらいたかったが、まずは本陣の防御が最優先だ。

 悲惨な結果が見えた場合、超一流の勇者たちだけは生きて帰さなければならない。魔王でも気軽に手を出せない彼らが生き残れば、今度は人類側が城や洞窟に立てこもって抵抗を続けられる。そうして時間を稼げば次の手も浮かぶはずだ。その時、私は生きていないだろうが。


 私たち「魔王テルシオ対策室」が考えた乾坤一擲のテルシオは、超一流の勇者パーティーが三つで十二人、遊撃パーティーが三十組で百二十人、哨戒パーティーが外側の頂点十八カ所で七十二人、百二十人のテルシオ本陣六つが七百二十人、そして、飛行部隊が十二人と合計九百三十六人になる計画だった。その他の補助人員を加えれば千人を超す。陣形全体の長さはおよそ千八百メートル、幅は千五百メートルにもなる。

 この世界の社会規模では町一つがそのまま移動するに等しい。

 それを私が指揮することになったのであった。転生者冥利に尽きると言える。私はそう自分自身をふるい立たせた。魔王との決戦の時は迫っていた。

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