第1話:ある転生者の作戦

 私が転生してきた剣と魔法の世界では「集団攻撃魔法(またはスキル)」によって、集団戦が難しくなっていることが観察と考察によって分かった。人が集まれば集まるほどローコストでまとめて叩かれてしまうのだ。

 それでも集団戦のメリットがまったく無いとは考えられない。「集団攻撃魔法」さえ回避できれば、集団のメリットを引き出せるのではないか。

 私は転生者の立場を利用して、王様や勇者たちに協力を求め、ひとつの実験を行った。誰よりも「集団回復魔法セレナイト」を使える高位の聖職者が協力してくれたことが大きかった。自ら実験に参加したのは彼女とお近づきになりたいからでもある。


 私が編成したパーティーは総勢で百人を超えた。この世界の歴史上では記録のない規模になる。ただし、単純に百人が一カ所に固まっているわけではない。

 まず百人パーティーが行軍する地域を知悉した中堅のパーティーが六つ、等距離を保って進んでいる。彼らは中央集団からみて六十度ごと正六角形の頂点に配置されている(点ではなく辺が前方を向いている)。これを哨戒パーティーと名付けた。

 中央集団からの距離は約三百メートル。各パーティーの間もそれに近い距離だ。この三百メートルは実験によって確かめられた「集団攻撃魔法」に巻き込まれない距離に少し余裕を加えたものだ。

 彼らが最初に魔物と遭遇し、大集団にとって厄介な「集団攻撃魔法」を持つ魔物がいれば、そのまま排除する。パーティーの間をすり抜けようとする魔物には長射程の魔法を飛ばして戦闘に持ち込む。もしも「集団攻撃魔法」を使う魔物がいなければ素通りをさせて中央集団の処理に任せる。

 実際にはしつこい魔物に絡まれて素通りさせられないことも予想される。その場合も「集団攻撃魔法」使いが敵にいなければ、それを示す照明魔法フローライトの信号を出して中央集団の援護を促すことができた。信号代わりに魔法を使うことは魔法力の無駄だと魔法使いに嫌がられたが、通信の重要性を考えればやむをえない。

 布陣の性質上、前方を行く哨戒パーティーの負担が大きくなる。そのため、配置はローテーションされる。


 八十人ほどの中央集団には私と高位の聖職者たん、他のお邪魔虫がいる。さすがにお邪魔虫と呼びにくいのは、周辺では最有力の勇者パーティーだ。彼らは万一の場合に備えて中央集団に待機していた。いざとなれば彼らだけでも苦境を切り抜けられるはずだった。

 最有力のパーティーは哨戒パーティーに異常があった時の代替要員でもある。なお、さらにもう1パーティー潰されても六角形の陣形を五角形に切り替えて進む計画だった――ある中堅勇者からは見知った地方を進むだけなのに偏執的だと言われた。

 強い勇者たちの他で半分の人数は酒場でかき集めてきた魔法使い、弓兵、僧侶たち。彼らが中央集団まんじゅうの「餡」だ。その周囲を残りの人員である酒場から選抜された戦士や城から派遣してもらった兵士が「皮」になって固めている。皮の連中に勝手な行動をされては困るので、規律を重んじる真面目な人間を選んでいた。優等生気質の高位の聖職者たんもご満悦だった。

 外側の皮が近づいてきた魔物をくい止めている間に、内側の餡が魔法や矢で攻撃し、僧侶が回復魔法で支える。それでも苦戦した場合は「集団回復魔法」を使い、最有力パーティーに参戦してもらう。

 この中央集団を私の趣味で「テルシオ」と呼んだ。しかし、最近は哨戒パーティーを含んだ亀甲型の陣形そのものが「テルシオ」と呼ばれるようになってしまった(あわてて「テストゥド」という名前を提案したのだが)。そのため中央集団は本陣やテルシオ本陣と呼んで再度区別している。ややこしいことに……。

 ともかく私の立案した布陣と作戦はおおよそ以上のようなものだった。


 そして、結果から言えば演習はだいたい成功した。百人パーティーは最寄りの町「モヨリノ」まで順調に往復し、遭遇する魔物をすべて切って捨てた。多人数のテルシオ本陣が遠くからでも目立つため、かえって近くにいる哨戒パーティーに魔物が気づかず奇襲を受けるという嬉しい誤算もあった。

 しかし、参加者の評価は芳しいものではなかった。一言で言えば

「割に合わない」

 そんな意見が多数だった。今までの冒険に慣れたせいもあるようだが、批判は真剣に受け止めなければならない。私が聞き取り考察したメリットとデメリットをまとめると下記のようになった。


メリット

・レベルの低すぎる人でも経験値稼ぎが可能になった(ただし……後述)。

・テルシオ本陣が各哨戒パーティーの補給、回復拠点として機能する。

・多くの荷物を行商人の単独行動より安全に運べる。

・単独の勇者パーティーより広い範囲の魔物を倒すため、「テルシオ」が通った場所がしばらく安全になる。


デメリット

・経験値と賞金は参戦者の頭数で割られるため、あまり得られない(割に合わないと言われる大きな原因)。

・開けた場所じゃないと使えない。

・哨戒パーティーより強い魔物が現れたら結局はテルシオ本陣を「集団攻撃魔法」でやられる危険がある。

・「集団攻撃魔法」を使う魔物は倒し、他はスルーする戦術判断が哨戒パーティーにはかなりの負担になる。

・噂に聞く空を飛び「集団攻撃魔法」を連発する魔物に対して二次元的な布陣では対応が難しい。最悪、全滅もありうる。

・部隊を編成するために多くの調整が必要(苦手な作業だ)。個人主義的な冒険者も多く、常に協力が得られるとは限らない。

・非常に多人数での行動だったため期待したほど高位の聖職者とお近づきになれなかった。


 けっきょくデメリットも大きく、出没する魔物の種類が読めないような地域の探索には使えないことが分かった。残念ながら現時点ではパーティーのあり方を変える画期的なシステムには到達していない

 ただし、王様が「テルシオ」を使うことで、不健康な生活から解放され、たまには外出できるようになった。けっこう感謝され、まんざらでもない(王様とのすれ違いが多くなった一部の勇者からは恨まれた)。

 最近は商人が協力して私のシステムそのものの「護送船団」を作る動きもあるらしい。今後も研究が必要である。

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