勇者の活躍する世界では何故、集団戦が行われないのか

真名千

第0話:ある転生者の論考

 私が転生してきたこの世界では四人程度の勇者パーティーが無数にいて、魔王を倒すための活動をしている。彼らを各地の王様が後援している。

 転生者の私から見れば、これは奇妙で危険な状態と言える。

 勇者たちは言わば「刺客」であり、人類と魔王軍の戦いは人類国家同士の戦争よりも、ヤクザ同士の抗争に似ている。あるいは特殊部隊やテロリストの送りつけ合いだ。

 そのため、人類の王様も魔王軍の少数グループによる「鉄砲玉」に襲われる危険を常に抱えている。事実、勇者がいつ王様を訪ねても彼らは城にいる。気軽に動けないのだ。


 権力者にとって、これほど不都合な戦争の形態は何故うまれたのか。

 私がやってきた世界の常識から考えれば戦いは数の多い方が有利である。剣や槍などの手持ち武器であればランチェスターの第一法則が、銃や弓矢などの飛道具であればランチェスターの第二法則が適用できる。

 そのこと自体はこの剣と魔法の世界でも変わらない。

 しかし「集団攻撃魔法」の存在が、戦いの前提を狂わせる(魔物はスキルの場合もあるが以下では魔法で統一する)。これらの魔法は一つの集団であれば一律に同程度のダメージを与えるため、多人数でいることのデメリットが飛躍的に大きくなってしまう。「集団攻撃魔法」を連発されると、もういけない。

 集団側も飛道具を装備していれば対抗はできるのだが、人数をそろえても互角なら、多数のグループを編成した方が良い道理である。

 しかも、「集団攻撃魔法」の撃ち合いであれば、先に敵を見つけて先手を取った方が有利だ。そして、集団で固まっていれば、より遠くから見つかりやすくなる。

 すばやく目の良い敵が「集団攻撃魔法」でヒットエンドランを繰り返せば、巨大な密集方陣ファランクスといえども壊滅を免れ得ない。


 また「集団攻撃魔法」に比べて「集団回復魔法」が高度で、使い手が希少であることも、この傾向を助長している。殴られた分だけ回復し続けるには術者が足りないのだ。その上「集団回復魔法」は魔力の消費量も相対的に大きい。

 少数で行動しているなら仲間を順に回復していっても何とか間に合う(可能性が高い)。自分で回復アイテムを使うこともできる。

 集団がまとめて魔法攻撃を受けて、個別回復魔法や回復アイテムをいちいち使っていたら、コスト的に不利である。「集団攻撃魔法」に必要なコストは相手が何人でも変わらないのだから。

 また、ダメージを直接与える攻撃じゃなくて集団を状態異常にしてくる攻撃も厄介だ。状態異常を解除する魔法は個別に掛けるものが大半であり、ダメージと体力回復の魔法よりも非対称性が著しい。


 以上のような非対称性によって、この世界の戦いが小規模になっている理由は理解できた。だからといって従うのは面白くない。自分が異なる常識をもって転生してきた意味もない。

 そこで次回は、この世界において集団戦を行う方法を考案し、実践してみたいと考える。

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