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「ちょっと、話聞いてる?」
「え?」
つまみの乾きものを片手にミケを振り返る。ミケ、なんて可愛らしい名前をしているが、コイツはれっきとした男だ。ピンクのワンピースを着てはいるが、身体は男。オカババーのオーナーを経営していて、こいつとの付き合いは自分の店を持つ前からある。もう十二年の付き合いだ。
「あれだろ、気になる男の誕生日プレゼントに何渡そうかって話」
「そう、それよ。何がいいと思う?」
「何って、なんか考えてんの?」
口に含んでいたウィスキーをゆっくりと飲み込んだ。鼻から抜けるこの香り、最高。
「乙女のあたしとしては、心のこもった何かをプレゼントしたいなって」
「乙女じゃなくて、おかまの間違いだろ」
「しっつれいね!身体は男でも心は乙女なのよ!」
「はいはい」
自分にリボンを付けて「あたしがプレゼントよ」なんて言ったらどうしようかとも思ったが、こいつはそんなこと言う奴でもないか。
こいつは相手の気持ちをちゃんと考える奴だから。自分に告白されて相手が嫌な気分になるかもしれないとビクついて一歩引いている、そんな自分の事よりも相手の事を考えて行動するような奴だから。
「別にミケがやりたいと思うものをやったらいいんじゃないか。意外とミケが作ったお菓子とかも美味しいんだし」
これならミケの言う【心のこもった】プレゼントになるのではないか。相手は誰だか知らないけど。
「え、本当にそう思う? あたしの作るお菓子美味しい?」
はしゃいだ声が聞こえたがそちらを向きはしない。想像に難くないし。
「悪くない」
と、言ったと同時にガバッと強い力で抱き締められる。もとい、締められる。
「だだだだだだだ」
「ありがとう、はなちゃん! あたしそれで行くわ! 女子力で落としてやるわ!」
ギリギリ、と力が増していく。肋骨がミシミシと軋んだ気がした。
「ま、又三郎ぉぉはな、はなせぇぇ」
「いやん、ミケって呼んで」
「るっ・・・せ」
絞め技から抜けられたのは異変に気付いた斉藤君のおかげだった。
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