そらふね、満月の夜に。

一葉(いちよう)

第1話 舞い上がれ大空に

「準備ok、与一よいちお願い」

「よーし、行くぞ!」

 船は枝がウネウネと曲がった大木の太い枝の上に載せてあるだけ、わたしは腰を固定ベルトでしっかりと船の中央にある背の高い背もたれの無いイスに固定させ、尚且なおかつ足首も床にバンドで固定する、船が逆さまになっても投げ出され無い様に。


 そしてズボンの胸当てから顔と手足を出した幼い可愛らしい女の子を抱きかかえている、但し重さは数百グラム、持った感触はまさにぬいぐるみ、、、しかしてその実態はいましがた冒頭に登場した与一を凌駕りょうがする強力な風使い、すなわちあやかしの仮の姿なのだ。

 

 今日は九月の十二夜、あと三日で満月の夜となる真夜中に、山中を少しだけ入った所に、わたし蒼井あおい伊佐宵いさよ

 (今だけ月姫十六夜いざよいとなっている)と、私に仕えるすこし年上の巫女(と言うより護衛役)の影丸。

 

 一年先輩の友部与一。

 ゲスト(ただの荷物持ち)に与一先輩の友達のヒマ人箕尾みのお黄昏たそがれ君。


そして先ほどの妖しフタギ、四人と、と、と、とやっぱり五人、フタギを一匹何てとても言えない、あえて言い直せば四人とあやかし一人、しかしこの四人の内、三人ほど怪しい者が居る。


 怪しい筆頭はこの私、真夜中の今、月の明かりを反射して目が爛々らんらんと光っているはず、そう私の属性はフクロウ、満月に近い今晩は朝の明るさと変わらないまま目に映る。


 そして満月に近付くにつれ体重が落ち、体を覆う全身の産毛うぶげが白い羽毛に変わってゆく、中一女子にして身長171cmなのに体重は普段40k前後、今は毎日一キロ近く減少していて30kgちょっと位だと思う。


 最近になってやっと体重の謎が解けた、それは空を飛ぶため、もちろんこの体一つでは飛ぶことなんてできる訳がない。


 見つけたのだ、空に浮かぶ船、空船そらふね、大きさは公園にある手漕ぎボートより二回り小さい、高さはと言うか形状からして深さ1.5mと言った方が合いそうな形状、ボートの底を深くした様な形をしている。


 翼は無いけれど船の上部の周りがスカートの様に裾が広がって、お皿をひっくり返した形で風を受け止める。見た目は透明なビニールの様なものだけど結構厚みが有り、見つけた時は40cmほどの真四角の同じ材質のバックに入っていた。


 つまりゴムボート、使い捨てのガスボンベみたいな缶を注入部に差し込むと一瞬で空気が入り、今説明した形になった。(んー空船がゴムボート、、、まあいいか)


 でも、厚みのあるビニールにしては、軽い、全然軽い、小学校の時に絵の道具を持ち運んでいた布製の手提げバックと変わらない、きっと特別な素材に違いない、空船なんだから。


 しかし動力がない、だからわたし一人では動かせない、彼ら風使いが居ないと浮き上がらせる事もできないのだ。


 今日乗り込むのはわたしとフタギ二人だけ、船もとても軽く実際に飛ぶ物の全重量は私の体重に一キロくらい加えた程度だ。

 そう私の体重が満月近くに最少となるのは空を飛ぶため、空船を自在に操るためなんだ、おそらく。


 与一が下から風を送ってくる、船の周りのスカートで風を受け止める。


 ズズズッ、船体が木の上を滑り始めた、もっと風を強くしなければ浮き上がらずに落下してしまう。

 「よいちー!もっと強く」船内から大声で叫ぶ、風を起こしている与一の耳に届くだろうか。


 「行くぞ伊佐宵いさよ」(彼だけはどんな時でも私をいさよと呼ぶ、他の子は私が<姫>でいる時は十六夜いざよいひかるだけはいつでも十六夜)


 ふわっと船が浮き上がる(やるじゃない与一)と思ったのもつかの間、スーと下降を始めた。(もう体力切れ、あのバカ)


 「フタギ、出番よ頼むわ」

私はフタギを胸の前で外に向けてしっかり抱きしめる。


 フタギが両腕を前に突出し手首を合わせパッと掌を広げるとブワッと風が吹き出す、その力に押され船はグングン水平に飛び出す、船体を操るのはわたしの体のバランス、後ろ向きに乗っているので体を前に倒すと船が前上がりになり上昇する。


 「フタギ、風の力を半分にして」

一気に50m位の高さまで上がっていた所で速度を弱める、そうしないと体力が持たない、私の。


 フタギの体はただのぬいぐるみ、体力など有る筈がない、すべて私の体力を吸い取り風を寄せ集め船が浮くくらいの強い風を起こしている、私はじっとして動かないが短距離走をしているくらい心臓がハネ、息が荒い、この調子では一分も持たない。


 体を右旋回しゆっくりと円を描いてUターン。

 「フタギ、ハアハア、もっと風を弱くしてゆっくりと、ハアハア、うん、これ位」


フタギはきっと何年も生きてるはずなのに、だーとか、うーとか赤ちゃん言葉しか話さない、それがとても可愛いのだが、私とヒカル以外は可愛いと言ってもらえない、見付けたときは顔も服もかなり汚れ、たぶん白だった所は黄ばんでいる幼子おさなごのぬいぐるみ、汚れを落とし絵の具で肌色を塗ってみたが色が付くところとつかない所があってまだらになってしまった。


 でも私とヒカルと与一には座敷童の様に人の姿に見えるのだ、これが妖しの正体。


 「フタギ、空を飛べたよ、フタギのお蔭だ」フタギを後ろから抱えていた私は、服ごとフタギを持ち上げてフタギの顔の横にほおずりする。

 幼いフタギがキャッキャと笑う、もう何年幼子おさなごとしてどこでどうやって生きてきたのだろう。


「これからもよろしくね」

フタギはニコニコと笑っている、私の傍に居ていいんだよ、伝わったかな。


「きょうはもうお仕舞い、降りるよ」

そう言って少し体を前傾に、船はゆっくりと下降を始めた。


 でもここからが難しい、下降し続けるとスピードが上がってしまう、この船には車輪なんて無いからふんわり着地しないと、ビニールみたいな生地が破けてしまうかもしれない、空船そらふねなのにもっとしっかりと作って欲しいものだ、ただで手に入れておきながら、そう言うかと自分につっこむ。


 着地をするのは山道の広くなった所と事前に決めていた、降りた時に両側から支えてもらうため。


 あと5m、みんなが下で待っている、慎重に下降をしていたがなんだか頭がしびれてきた、酸欠なのかエネルギー切れなのか、慣れなくて無理をしすぎたようだ、「よいち、、」<風を吹かせて>と言おうとしたがかすれて声が出ない。

 地面まであと3m、そこでついに意識が飛び去って行った。



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 読んでくださってありがとうございます、いち-ようと申します、新参者です。


 この話は只今連載中「ペーパームーンのお姫様」(ごめんなさい只今改定中、一旦非公開)の一部になる予定の数か月先のパートです、pvが伸びないための対策に「日帰りファンタジー」に乗っかろうと、急遽書いてみました。

 本編が後追いになりつじつまが合わなくなったら、まあその時はその時で。。。


 登場人物のプロフィールは「ペーパームーンのお姫様」第一話を読んでください!

 と言いたいところですが、とっても長文ですから簡単に紹介しておきます。


 主人公 蒼井伊佐宵あおいいさよ 三日月中学一年生 一応女子、本人ほとんど自覚なし、色白すぎる皮膚の色から、幽霊でもオバケとでも呼んで、と言う怪しげな血筋の少女。十六になると月姫<十六夜いざよい>となり、月からお迎えが?


 与一 友部与一 伊佐宵の一年先輩、人ではあるがほんの少しの風使い。

彼は伊佐宵の友人の日輪ひのわひかるを心の恋人と言っているが、その子には冷たくあしらわれている、なにせ彼女は彼氏の名を蒼井伊佐宵いざよい(私の事)だと言う。


 影丸 月の民と言う特別な血筋の自給自足の集落から<月姫>蒼井十六夜の護衛役として送られてきた、忍術使い。姫の側近、巫女と言う立場。


 フタギ 新キャラ 風使い 幼い少女のぬいぐるみ。


本編の方も読んでいただけましたら幸いでございます、出来れば感想など(くっそ読みずらいとか)肝を冷やしてお待ちしています。



 


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