第2話 私、兄を『チカン』してやりましたの
「つまり君は『まもうと』ということか」
「は?」
全裸男の言葉に魔王の妹ディモニークの頭はフリーズした。
「魔王の妹、略してまもうとだ」
「なるほど……って! 字数が変わってませんわっ!」
「『まおうのいもうと』と『まもうと』が同じとは……文語基準で何を言ってるのだ? まもうとよ?」
「その憐れみの視線を止めなさい! ただの人間がっ!」
余裕綽々な男の言葉にディモニークは頭を抱えた。
魔族の頂点に立つ魔王。その妹である彼女には地位は勿論のこと実力があった。
彼女の思い通りにならないことなどそうはない。そのはずなのに武器1つ持たないどころか丸裸の人間に手玉にとられているこの状況に感情が追い付かない。
「ではじゃれ合いはこれくらいにして……この状況は君が作ったものだな? まもうとよ?」
「なぁ……!?」
男の質問 ― 否、確認に開いた口が塞がらない。この男の世界には魔法は存在しないはずだ。だからこそあいつの送り先に選んだ。なのにそこの住民がこの状況を瞬時に掴めるなどあり得ない。
「その様子だと、正解のようだな。」
「ぐぬぬ……!」
完全に手玉にとられてしまっている。一見するとこの世界の人間族と変わらないのにいったい何故だ。それに出合い頭に男の裸に驚いて放った
「あなた、何者ですか?」
「大学生と言えば聞こえが良いが、ただの親のスネ齧りの若造に過ぎんよ」
大学生という言葉は理解できないが、男が謙遜していることは分かった。なんということだ。この男の世界の人間族または大学生というジョブは圧倒的な力を持つのだろうか。あるいは両方か。
「さぁ、まもうとよ。そろそろ事情説明をしてもらおうか? それか魔王に会わせてもらえないか?」
全裸男は淡々と行動を促す。その余裕がディモニークのプライドに障った。しかし男の口にした魔王と会わせろという言葉に彼女はハッとした。そうだ、魔王がどうなったかを聞かさればこの男の余裕も吹き飛ぶに違いない。上下関係というもの知らしめてやろうと心のなかで舌なめずりする。
「くくく……魔王、ですか?」
「ああ。どうしたのだ、まもうとよ?」
「魔王はいません。この世界にはいないんです。私が消したから、ね」
つい先刻この世界から魔王は消失した。ディモニークの手によって。
さあ、その事実に打ち震えろと男を見るがその表情に変化は現れない。
ディモニークはダメ押しに再度宣言する。
「そ、そう! 魔王は私が消したんです。私、兄を『チカン』してやりましたのっ!」
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