転生したらハーレム構成員でした

秋野シモン

第1話

 死にたいですか?

そう訊かれて、はい!と答えれる人は誰でしょう?

正解は、俺。

嘘です。死にたくないです。でも、一時的に死ねるなら、今そうしたい。今日は新学期初日。夏休みが終り、みんな体と頭が熱くなっている。そのせいか、俺の周りには今、アツアツなカップルがあふれている。こいつら、夏休みに何があったんだよ。夏休みの行事というと、確か、花火大会くらい・・・あ、なるほど。そのときか。

「おい、なにしけた顔してんだよ。自分だけ独りだからって落ち込むなよ」

そう声をかけてきたのは、俺の数少ない友達の一人。だがそいつの右手は、同じクラスのとある女子の手をしっかりと握っていた。お前、夏休みの前は、

「中学生の内から恋人作って浮かれてるやつらはバカなんだよ」

って言ってただろ。

「俺は気づいた、恋人のいる幸せを知らないやつこそがバカなのだと」

そう言って、俺の元友達は、自らの彼女の手を引いて去って行った。

「ちっくしょー‼」

そんな一発や芸人のギャグみたいなことを叫んでも、何かが変わるわけでもなく、ただ、虚しい。

その日の帰り、気分的にも事実上も下を向いて歩いていた俺は、渡っていた横断歩道の信号が、いつの間にか赤になっていたことに気づかなかった。猛スピードの車が向かってきたことにも。

 俺は今どこにいる?どうなった?

「死んだよ」

「はい?」

「だから、君は死んだんだよ」

「死んだ?」

「そうだよ」

俺はしばらく黙りこみ、やがて状況をなんとか飲み込み、一言。

「美人の女神様が良かった」

「状況を理解した上での第一声がそれか⁉」

「だって、死んだら女神様に会えると思ってたんですよ!なのに、実際はオッサンて!」

「オッサンはないだろう、僕は人間年齢でまだ20代だよ」

「で、なんですかオッサン。俺に異世界転生でもしてほしいんですか?」

「うん、ま、そうなんだけど、とりあえず『オッサン』はやめようか。僕、神様だし」

「分かりましたよ神様のオッサン。で、俺は異世界で魔王でも倒して、ハーレム作ってウハウハすればいいんですか?」

「もう呼び方を突っ込むのはよそう。いや、ハーレムを作るかは君の勝手だし、なにも魔王を倒す必要はない。それにしても、君、飲み込みが速すぎないかい?」

「俺の世界には、『異世界ファンタジーのライトノベル』というものがありますから」

「うん、深くは問わないよ」

「お気遣いどうも」

「言っておくけど、これはとてもラッキーなことなんだよ?僕たち神々が由緒正しき方法で決めたんだ」

「というと?」

「あみだくじとくじ引き」

「すごくテキトー感があるんですが」

「そんなことはないさ。とにかく行ってきなよ。向こうの世界で死んだときは、元の世界で生まれ変われるようにするから」

そう言った神の前に、金色の門が現れた。俺がその門をくぐった瞬間、意識が途切れた。

 しばらくして、意識が戻って来ると、あまり慣れない草の匂い。どうやら、草原のような場所で仰向けに倒れていたようだ。起き上がろうとすると、体がなにかおかしいことに気づく。目を開けると、来ていた制服のシャツの胸部が不自然に膨らんでいる。体を全体的にさわってみると妙に細くて滑らかだ。顔もスベスベしている。辺りに人がいないのを確認し、思いきってシャツのボタンを外すとそこには、女子の胸があった。うん、間違いない。

俺は女になっていた。

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