第42話 感じる

僕は忘れていた。

というより、見逃していた。

僕は、毎日、毎時、瞬間瞬間に、何かを感じている。

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触角の五感を通して。

その感覚から何かを思い出す。

昔経験したこと、その時感じた感情、思い、などなど。

僕は追体験する。

今はもう何の影響もないことでも、感覚は何かを思い出させる。

喜びならまだしも、苦しみや悩み、後悔を伴うものも多い。

今、見ているものではないのに、また悩み、苦しむ。

無駄なことなのは、わかっている。

頭のどこかで、僕の中の何者かが教えてくれている。

それなのに、思い出すことを止められない。

苦しむことを繰り返す。

それは、突然に来る。

何が、どんな感覚が引き金になったのか、考えるいとまもなく、ありありと現前し、巻き込まれる。

しばらく動けなくなる。

ぼんやりと歩いているときに、街角で出会い頭にぶつかりそうになるのと一緒。

僕が悪いわけでもなく、相手が意図したわけでもない。

偶然の賜物に過ぎない。

それなのに、思い出すことを止められない。

どうせなら、いい感じになれる方がいいのに。

楽しい気分でいたいのに。

引き金に気づかないせいで、心の傷跡に弾丸をぶち込まれる。

しっかりガードしておかないと難しい。

見逃してはならない。

そう思っている。

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