恋愛長編 『書道ボーイと華道ガールの恋愛トライアングル』

くさなぎ そうし

プロローグ




 16歳以上の男女は84%の確率で将来の伴侶と出会っている。



 らしい。



 俺はすでに出会っていたのだろうか、それとも――。





 ……ここに来ても、ずっと鳴り止まない音が聴こえている。



 波の音と共に、彼女達の声が浮かんでは消え、俺の心をかき乱していく。



「ねえ、りょう。あんたはあたし達、どっちを選ぶの?」


「涼介、あなたが決めるしかないわ。教えて、あなたの答えを――」



 ……ずっと鳴り止まない音は光と影の声。俺はどちらの彼女を選ぶべきなのか。



 砂浜を巡り、波のポイントを目で探っていく。初恋は幼馴染の彼女だと思っていたが、それすらも確信を持つことができない。


 今の俺の体を最も支配しているのは転校生のだからだ。



「お願い、涼介。もっと私を見て? こんな気持ち、初めてなの。だから、もっと私の体を――触って?」



 ……ずっと信じて培ってきたものがたった半年で崩れていく。俺の心はこんなにも脆く、儚い。



「涼介、愛は一つではないのよ。あなたが彼女を選んでも、私はあなたを愛し続けるわ」



 ピークを過ぎた波は岸へ辿り着く前に泡となって消えていく。漣が砂浜を濡らし、恋人達が描いてきた文字を跡形もなく消していく。



 ……『恋』と『愛』、辿り着きたい道はどちらにあるのだろうか。それすらもわからずにいるから、俺は俺の字を書けないでいる。



 ポイントを絞り砂浜にサンダルを預ける。突如、彗星のように現れたカノジョと彼女の対比に俺の心は彷徨い、暗闇の深海へと飲み込まれている。この問いの答えはきっとすみよりも黒く、深い所にあるのだろう。



「……ねえ、りょう。お願いだから、あたしを……あたしだけを見てよ。りょうじゃなきゃ――あたし、ぜったいに、嫌だよぅ――」



 光を求め、ただまっすぐに上を向くカノジョと、安定を手にいれんと静寂を欲する彼女。きっとどちらを選んでもいいだろう。恋と愛のように表裏一体にあるどちらの面を選んでも、それは一つの道となる。



 だがどちらかを選ばなければ、自身の道は見えない。



「……ねえ、ずっと好きでいてくれる? ほかの人のこと好きになったりしない? ぜったいぜったいに……あたしと一緒におってよ、約束やけんね?」



 この波を乗り越えなければ、目指すものには辿り着けない。リーシュコードを巻き直し、ボードを手に取りながら海へ向かい、荒波に心をぶつけていく。



 ……あの日、誓った目標を目指し進み続ける。今はそれだけを考えればいい。なのに、なのにそれだけがなぜできない。



 パドリングを繰り返し、波のピークに体を預ける。この波は岸までたどり着けるだろうか。それは秋の訪れを迎えた風だけが知っている。



 ……たとえ間違った選択をしたとしても、自分の『道』だけは曲げてはいけない。ここが俺の人生の分岐点ターニングポイントなのだから。



 ボードの中心に左足を乗せ、波の生末を予測する。全てを感覚に預け、進めると思う方向にボードを導いていく。




「りょう」


「涼介」


 

 波が白い泡となって海に飲み込まれていく。ボードが辿った道のりは跡形もなく消えていく。だけどこの心の満ち引きはいつまでも揺れ動き、留まり続けるだろう。




「「お願い、私にだけ接吻キスして」」




 はたして、俺はどちらを選べばいい?



 波の道は見えても、未だこの答えは見えそうにない――。

 


 

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