魔法使いの弟子は大変なものだ。
ちはや
第1話というかプロローグ
「はー。片付けても片付けても終わる気がしないんだけど」
「ガマンしなさい。お小遣いも出すから」
「受験生の身で何に使えと……………?」
きっかけは死んだ祖母の遺品整理だった。一ヶ月前に亡くなった祖母の遺品を整理しなければとなったのは昨日。なかなかに人脈が広い人だったようでひと段落着くのに一ヶ月もかかってしまった。祖母はそれなりに大きさのある一軒家に住んでいたので母一人では足りなく、仕方なく自分も付いてきたのだった。
「何このチラシ。2017年九月の……………今日何日だっけ」
「12日」
「あれ、じゃあ明日か。13日にお越し下さい?住所は……………家の近所の空き地だ」
「それね、悪戯よ」
まったく、大事な受験生に何をさせるのかと表面では憤っているものの、正直根を詰め過ぎてどうにかなってしまいそうだったのでまあこれも気分転換。なんて勤しんでいた時に見つけたのは1枚の古ぼけたチラシ。
「内容は……………魔法使いの弟子?」
「それは何年前だったかしら。たしか二十年ほど前かなー。最近はやらなかったからあなたは知らないだろうけど、昔の母さんの鉄板ネタよ」
うちの祖母は昔から近所にたいそう頼りにされていて、死ぬまで町内会長をやっていたそうだ。それで時々掲示板にふざけた貼り紙を貼って謎解きゲームのようなものをしていたらしい。
「結構難解なそれでね、解けるのは毎回二、三人だったけど商品が意外と豪華でね。一番凄かったのは何だったかな。冷蔵庫かなー」
「冷蔵庫……………?」
「そ、時々ふらりといなくなって、帰ってきて。よくわからないお土産をぶら下げて帰ってくるの。流石に冷蔵庫持って帰ってきてそのまま景品にするとは思わなかったけど」
うちの祖母は結構なエンターテイナーだったらしい。うーむ。やはり笑いは忘れてはいけない。見習いたいものだ。いやまあ限度はあるけれど。
「じゃあこれも?」
「そ。貼られたのはいいけど誰も解けなかったのよね。母さんに答え教えてよって言ってもその時まで待ちなさい。としか答えてくれなくて」
「へーえ」
確かに書かれた文章は日時、場所、あとは魔法使いの絵。これじゃあ考えても何にもでなさそうだが。炙り焼きとか、なんか他の方法を取らなければ情報が足りない気もする。
「あ、そうだ。もしかしたら本当にその日時に行けば見つかるかもしれないし。そこになにかあったら遺品でしょ?あなたちょっとそれ回収してきてくれない?明日も休日でしょ?」
「へ、あー。うん。そうだけど」
少し考えてからうん、と了承する。まああれだ。気分転換、その延長戦だ。正直いって胡散臭さしかない。生前のチラシなども見せてもらったがなかなかに考えなければできないものばかりで、本当にこれは祖母が貼ったのか疑わしい。誰かのイタズラなんじゃないか?
「そもそも、なんで二十年後なの」
「さあ?一人娘の私でも完全には母さんのことわからなかったもの」
そういうものか?と問いかければ、そういうものよ。と返ってくる。まあ、ともかく明日そこに行って何もなければ本当に他人のいたずらだったんだろう。
「空き地なんだし。掘ればなんか出てくるかなー」
「あれ?二十年前のあの空き地の場所にはどこかしらの家がたっていたはずよ」
「おいおいおい……………」
先程から手を止めてはいないものの、少しだけ気になる部分はある。時々オカルトとしか取れないような物品。注釈が真っ赤になるほど書き込まれているなにか怪しい本。目玉の詰まった瓶。
果たして明日、鬼が出るか蛇が出るか。それと何も出ないのか。ひとつ言えることはこの遺品整理はなかなか終わりそうにないという事だ。
「疲れたー」
「手を動かしなさい手を」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます