闇の中で出会った天使

花海

第1話暗い暗い場所で出会った天使

物心ついた時から、俺に親というものはいなかった。ただ、暗い暗い場所にいた。目の前の世界は、力と金におぼれた性根の腐りきった人間しか映し出してはくれなかった。光の届くところに行きたいと強く願った。何度も何度も願った。そんな願いが一度叶いかけた。目の前に光の差し込んだ街が見えた。そちらに、ただ走っていった。ようやくこの暗い世界から解放される!そう思っていた。しかし、そこには温かい言葉をかけてくれる人も、優しく接してくれる人もいなかった。暗い世界と同じように、差別され、嫌われ、石や物を投げられ攻撃された。そこに光など存在しなかった。そして俺は、光を強く憎むようになった。

そして時は流れた。


「やめてくれ!…俺は…まだ死にたくない!」

…これまで何度も同じような言葉を聞いてきた。いつもそうだ。子供だからと俺を襲い、返り討ちに会ったらいつもこうだ。あまりにも情けなく、汚い言葉だ。

かといって、ここで見逃すわけにもいかない。だから俺は、手に持った獲物でそいつの頭を叩きつけた。グシャリと何かがつぶれたような鈍い音が響く。

…また、1つの命がこの世界から消えた。

「………」

もうこの作業にも慣れてしまった。襲ってきた人を殺し、持っている食料や金目の物を奪う。そうやって俺は生きている。この光の届くことのない暗いくらい世界で。

「…帰るか」

まだ少し熱を持った遺体を適当に隅に捨て置くと、持っていた荷物を奪いそのまま自分の居場所に戻ることにした。

長く暗い入り組んだ道を抜け、少し明るく広めの場所に出た。

そこに俺の居場所は存在した。

この暗い世界では、上に立つもののルールに従わなくてはいけないという暗黙のルールがある。しかし、そのルールも絶対ではない。自分自身の為ならば、誰もがるを破る。この場所は俺がそんなルールを破って奪い取ったものだった。闇から最も遠く、光に最も近い場所。光を憎んだ俺だったが、どうしても小さい頃に抱いた夢を完全に否定し、消し去ることはできなかった。だからだろうか。ここを奪うときもすぐに決断できたし、奪い取ってからずっと、ここにいると心地がいい。石畳の地面に奪ってきた盗品を投げ捨て横になる。空から差し込む月明かりが、ただただまぶしかった。そうして、俺はゆっくりと瞼を閉じた。

その時だった。誰かの足音がかすかに聞こえた。また敵か?俺を殺しに来たのか?それともこの場所を奪いに来たのか?幸い獲物は手に届く場所にある。襲われれば返り討ちにしてやればいい。

だが、それにしても覇気がない。まるで、生まれたばかりのひなのようなか弱さだ。…いったいどこのどいつだ?

眠りかけていた体を起こし、獲物を持って立ち上がる。

そして、そいつは俺の目の前に現れた。

手に籠を持ち、髪は長く、頭には赤い髪飾りをしていた。見た目からして、どう考えても俺たちの生きている世界とは違う人間だと分かった。

そいつは、俺の領域に走って入ってくると、俺を見つけるなり俺に駆け寄ってこう叫んだ。

「助けてほしい」と。

その言葉を聞いた時、同じ場所から汚い人間どもがぞろぞろと俺の居場所に入り込んできて、俺たちを囲んだ。

にやにやと汚い顔で獲物を持った汚物が近づいてくる。俺はただそのことが許せなかった。

「おい、女」

そう言うと、そいつはびくっと体を震わせてこちらに顔を向けた。

顔も整っていて、そして、とても綺麗だった。

「…は、はい…」

「…いいって言うまで目を開けるんじゃねえぞ」

コクンとそいつはうなずくと、俺の言ったとおりに目を閉じた。

そして、汚れたやつらに獲物を向ける。

「…俺の視界から消えろ、汚物。でないのなら…殺す」

獲物を一振りして相手を威嚇する。ブンと風を裂く音が聞こえた後に、軽く衝撃波のようなものが生じる。それにビビったのか汚物たちは足を止め、こちらを睨みつけてきた。そんな汚い目で見るな。汚らわしいにもほどがある。

「…死ね」

俺は獲物を肩に担ぐと、その言葉を最後に、汚物たちに襲い掛かった。



「いいぞ」

俺がそういうと、そいつはビクビクと体を震わせながら目を開けキョロキョロと首を振ってあたりを見回していた。先程追いかけてきていた奴らがいないか心配らしい。そして、あいつらがいないということが確認でき安心したような動作を取った後に、その場に倒れてしまった。

すんでのところで体を受け止める。そいつは、先程あいつらに追われて疲れたのか、寝息を立てて寝てしまっていた。

どうしていいのかわからず、俺は悩んだ挙句そのままの態勢で寝ることにした。そうしたほうが少なくとも安心できるだろう。そうして俺は眠りについた。

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