プロローグ
少女は眠った。
少女は眠ったままだ。
少女は眠り続けるだろう。
ぽたり、ぽたり。点滴が落ちる。すう、すう。静かな寝息。
長い栗色のまつ毛が少しだけ揺れる。
衣擦れの音、寝返り。
はねた栗色のくせ髪が、白い枕をさらさらとくすぐる。
同時に、ぽろりと。
耳から外れて落ちたなにかが、枕の上に転がって。
片耳のイヤホン。クリーム色で、ひょうたんのような形をしている。
伸びているのは同じ色のコード。よれた線はベッドからサイドテーブルを這って。
その終端は、小さな液晶テレビへと繋がっていた。
イヤホンから漏れ出る音。
午後九時ちょうどのニュースの時間。
ぼそぼそとしたキャスターの声。
無感動に、無感情に。
『今日午後五時ごろ、S県S市のマンションの一室で、住人の男子高校生が倒れているのが発見されました。
男子高校生は酷く衰弱していると共に深い睡眠状態にあり、近年発症件数が急激に増加している睡眠障害「いばら姫症候群」である可能性が高いと見られています――――』
少女は目覚めない。
少女は目覚めていない。
少女は目覚めないだろう。
依然として夢は覚める気配もなく。
だから、夢の世界の話をしよう。
現実はいつだって無味乾燥で冷酷無比。ああつまらない、つまらない。
なんなんだこれ。こんなものに価値なんて無い。
病室のベッドに横たわる白い顔を見て何が面白い?
薬品くさくて陰気くさい病人を見て楽しむ奴がどこにいる?
病状がどうの余命がどうの、感動話でお涙頂戴。
そんなものは、人生に擦れ切って疲れ果てた大人が見るものだろ?
誰とも知らない他人の生き死に一喜一憂しつつ、自分より悲惨なその人生を「ああ、俺は私はこいつよりかはマシだなあ」なんて下に見て悦に浸る、なんともどろどろとしたエンターテインメント。
ああ、いやだいやだ。若くて瑞々しいティーンが見るもんじゃないね。
だから、夢の話をしよう。夢のある話をしよう。
大金掴んで遊び倒したりとか? 異性にモテモテで困っちゃったりとか?
異世界チートで俺TUEEとか? 悪役令嬢に転生してヒロインざまあwwとかも?
いいじゃない、いいじゃない。とっても夢があるね、楽しいことこの上ない。
全てはボクらの思い通り。そうでなければ意味がない。
だってそうだろ? なにせこれは夢なんだから。
なんでもありが大前提。意に沿っていて当たり前。
好き放題に、手前勝手に、やりたいことをやりたいだけやろうじゃないか。
というわけで、前段が長くなってしまって非常に申し訳ないけれども。
ようこそ、夢の世界へ。ボクたちはキミを歓迎するよ。
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