異世界へ

「木下勘下由?この人誰?」

「知らない・・・っていうか小牧長久手の戦いって地味じゃない?」


「これに出れば、日本史の追試を受けなくて良い」という校外活動に参加している生徒達の古戦場巡りである。詳しいヤツが知らなくて当然の武将を赤点を取る連中が知っているはずがない。


「木下勘下由は豊臣秀次に自分の馬を与えて逃げさせて、徳川軍と奮戦したんだぞー」

教師が大声で説明する。

「その結果、そのかげゆさんは出世したんですかー?」

生徒の一人が興味なさげに質問する。

「するわけないじゃないか、勘下由はその戦いで奮死したんだぞ。」

教師が呆れたように説明する。

「なんだ、無駄死にか」

ボソッと生徒達が言う。

実際その通りだろう、負け戦での逃亡戦で死んだ武将なんて歴史に名前も残らない。「馬を大将に渡した」なんて美談があってすら、地元の人も知らない、それが普通なのだ。

「そ、そんな事はないぞ!そこで大将が死んでいたら歴史が変わったんだからな!」

教師がフォローするように言う。

「お前もそう思うよな?諸角?」

こういう時だけ歴史オタクに話を振るのは止めて欲しい。多少の熱があってもテスト受けときゃ良かった。そうすればこんな校外活動に出なくてよかったのに。

「逃亡戦にも歴史に残る逃亡戦も沢山あります。張飛や弁慶が有名ですよね。意味がない事なんてありません。」

優等生のように俺は答えた。

あー家に帰って『春秋無双』したい。

春秋戦国時代に生まれてたら俺も無双出来たのかな?無双の世界に生まれたかったなぁ。


どこからともなく声がする。

「姫様を逃がしてくれる英雄を異世界より探しだしました!しかしなかなかいないものですな、この世界に来たいと望む異世界の人物で負け戦の逃亡戦に手を貸してくれる理解のある者は。すぐにここに連れて参ります!」


目の前が一瞬暗くなった、と思ったら目の前に可愛い女の子が立っていた。この時に俺は一目惚れというものを実際に経験した。

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