第3話 大衆浴場

 サンドニタウンには、人が増え仕事も増えたシャーロットタウンに向かったものの、職に就けなかった者達が多く留まっている。最近数年の人口増はほぼシャーロットタウンに住めなかった者達によるものだ。


 サンドニタウンのそばには鉄の鉱山があり、この鉱山に関連する仕事にこの村の多くの者が就いている。ブライトンさんと僕達が頭を悩ませているのは、鉱山で働く人達の皮膚と肺の疾患だ。


 鉱山を経営している会社へ健康診断をまめに行ってもらうよう、ブライトンさんは役場へ申し入れ、それは何とか通ったようだ。近々から健康診断がこまめに行われるだろうとのこと。


 肺の方はとりあえず、それ以上のことはできないが、皮膚の方はまだできることがある。

 作業後の身体を衛生的に保つことだ。

 そこで、役場から建設費を出して貰い、維持と運営は鉱山側とブライトン医院が協力して大衆浴場を開くこととなったんだ。利用料は、鉱山関係者とその家族は無料、その他の方は小さなパン一つ買える程度の安さでと決まった。

 皆、貧しくて自宅にお風呂を持ってる人はとても少ないから、格安で利用できるお風呂は必要だったんだ。


 温泉を利用できる環境ではなかったから、ボイラーを利用してお湯を沸かし、濾過器で汚れを取って、湯船のお湯を循環させている。洗い場は一度に二十人ほどが利用できる広さ。男女別に湯船と洗い場と着替え室が用意されている。

 この浴場には、肌へ刺激が少ない洗浄剤が用意されている。ブライトンさんが材料を吟味して、注文し、鉱山側が費用を負担してできた、なかなかの優れものだ。


 『仕事の後は帰宅前に入浴し、鉱山内でついた汚れをしっかり落とすこと』


 これを鉱山側に周知徹底してもらう。

 最後に、この大衆浴場の従業員は獣面種の獣人に担当して貰うようブライトンさんから鉱山側へ依頼され、受け付け、館内や浴槽に洗い場の掃除、ボイラーや濾過器・循環器の調整や修理の仕事を、全部で三十人程度だけど仕事が生まれた。

 女性でもできる仕事だったから、村では仕事が少ない獣面種の女性からの応募が殺到したのは言うまでもない。そして従業員ほぼ全員が獣面種の女性となった。


 チョココさんも村の人々のためにできることがあればやる人だった。ブライトンさんもチョココさんに負けじとやる気を出している。そして大衆浴場を作らせることに成功した凄い人だ。チョココさんとブライトンさんは長年の親友だとブライトンさんから聞いたけど、似たもの同士なんだなと感じるよ。二人とも凄い。


 「生活するための金は、そこそこ患者さんが来れば十分稼げる。患者さんがあまり増えると、疲れるし、大変だし、のんびりする時間も無くなるだろ? 」


 ブライトンさんも、チョココさんに負けずにこんなことを言う。

 でも、僕はチョココさんを見ていたから、この言葉が本音を隠す照れ隠しだと見破っている。


 チョココさんが作った社会化期用の託児所もサンドニタウンに用意し、その上、大衆浴場も作った。あと他にも考えていることがあるらしい。


 お風呂帰りの家族連れが鉱山側から湯気を出しながら歩いてくる。

 左右の両親と手を繋いでいる子供の湯上がりで蒸気した顔が嬉しそう。


 ブライトンさんの思いやりが、この村の人達の笑顔を増やしている。


 「次は、大衆浴場の隣に家族で入れる安い定食屋でも作るか? 儲かりそうだぞ」


 僕と並んで歩くブライトンさんは、風呂帰りの家族を温かく眺めながらそう言った。


 …………本音じゃないのは判ってる。……でも、せっかく感心していたのに、ぶち壊しだね。

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