第114話 問題に集中です

「えっ、貸してくれないの?」


 学校から帰ってきてご飯を食べ終わった僕は早速曽祖父の本を借りようとして断られていた。


「ごめんな、アヤト。今から研究のために使うんだ」


「ほんの数ミニでいいから」


「数ミニ?お前は何のためにこの本を借りようとしてるんだ?」


 怪訝な顔で聞いてきた父に対し、言葉に詰まってしまう。

 そのまましばらく黙っていると、


「まあ、理由はいいや。十五ミニだけだぞ」


と父は譲歩してくれた。

 僕は父に感謝の言葉を言い、そして白紙とペンを用意。

 さあ、制限時間十五ミニ。曾祖父からの試験の開始だ。


「おい、アヤト?」


 まずは最後のページ、例の模様のページを開いたところで父から声が上がる。

 えーっと、一問目の参照ページは百八ページか。ページを繰りつつ父に返事。


「何?お父さん」


「いや、普通に読むとばかり思っていたんだが、いきなり最後のページを開いたから何かと思ってな。……まさかその模様って文字だったりするのか?」


 正直に答えると面倒な事になりそうな気がする。

 黙秘権を行使しつつ指定のページを見ると、そこに書いてある式は一つだけ。余白にはみ出るように書いてあった。


「ああ、この前見たページだ。波動方程式か」


大学で散々見てきた式だ。その解ということは波動関数の事だろう。粒子の存在確率はその絶対値の……二乗。ここの答えは二だな。よし、メモって次。


「あの。おーい。アヤトー」


 再び最後のページに僕は目を落とす。何か聞こえた気がするが気のせいだろう。

 次は……ってこれも前に見たページじゃないか。まあいいや。複素インピーダンスということはこのjは虚数単位を表すから……答えの位相は九十度ってことだな。で、問題文の形式から九と。メモメモ。

 三問目は……ふう、良かった。Siの原子番号なら覚えている。十四だ。アクチノイドとかランタノイドとかだったら絶対分からなかったな。とりあえず四っと。

 さて、雰囲気ブレイカー四問目。これは高校でよく見た問題だな。合同式を使えば簡単に出てくる。……最後に使ったのは結構前なのに以外と覚えているものだな、かれこれもう七年前のことなのか。

 最後は、補数の問題か。これまたピンポイントな問題だな。こんなの向こうから来た人だったとしても知らない人の方が多いだろうに。これ解かせる気あるのか?と勘ぐってしまう。

 曾祖父とおそらく専門分野が被っていた偶然に感謝しつつ、左左右右と結論を出し解答終了。


「お父さんありがとう。本はここに置いておくよ」


「あ……ああ」


呆気にとられたままである父を置き去りにして、部屋を出て行くのであった。

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