第30話 林の中は危険です8

開けた場所で最初に目に入ったのは、

倒れ伏すアヤトと、呆然としているミリアちゃん。


「アヤトっ、おい、アヤトっ。しっかりしろ。」


と叫んでいるアレフ君。


そして、そこに襲い掛かろうとしているワーウルフでした。


私は咄嗟に両手に持った魔道具で、敵を撃ち倒します。

同時に、騎士団の皆さんも到着して、防衛に回ったようです。


「アヤトっ。」


私はアヤトのところに駆け寄ります。

確認すると、息はあるようでした。

最悪のケースではないことにほんの少しだけ安心していると、

声をかけられました。


「アヤトのおかあさん?」


「はい、アレフ君。

騎士団が来てくれたので、もう大丈夫ですよ。

それで、アヤトはどうして?」


そう聞くと、私の袖がツンツンと引かれました。

後ろを振り向くと、ミリアちゃんがいました。


「ご…ごめ…ん……な…さい。

わた…しのせい…で、アヤトくん…が……」


聞くと、アヤトは逃げ遅れたミリアちゃんをかばって、

ワーウルフの突進を食らったようです。


ワーウルフの突進ですか……

気を失っているのは魔物の特性のせいね。

これで、頭さえ打っていなければ……打ってないわね。

これなら三日ほどすれば大丈夫。


そう判断して、ミリアちゃんを見ると、

今にも泣きだしそうでした。

私はそっと彼女を抱きしめました。


「大丈夫。アヤトも問題ないわ。

よくみんな無事で、ここまで頑張ったわね。」


そういうと、緊張の糸が切れたのか、

ミリアちゃんは泣き出してしまいました。

それに気づいて、ユッドさんとフリッツさんもこちらに来たので、

ミリアちゃんをフリッツさんに預け、

ユッドさんと話します。


「メアリーさん、アヤト君は我々騎士団が

責任を持って搬送しますので、ご安心ください。」


「はい、お願いします。」


そうしていると、

騎士団の方が報告に来ました。


「隊長、掃討完了しました。」


「おう、それじゃあ帰投準備に入るぞ。

まずは、負傷者数のチェックから始めろ。」


「了解。」


「それでは、メアリーさん。五ミニほどしたら出発します。」


「わかりました。」


そう言って、ユッドさんはアヤトを抱えてテントの前に向かいました。


私は周りを見渡します。

もうすっかり暗くなった林の中ですが、

この一帯は、騎士の方々が持つ明かりで照らされています。


向こうでは、


「ごめん、アレフ。じぶんだけ、

ここのたたかいからにげるようなまねをしてしまって。」


「ビート、あやまるなよ。おまえがたすけをよびにいかなかったら、

おれたちは、たすからなかったんだぜ。

しかも、おまえだってボロボロじゃねえか。

たたかったんだろ?

おまえがでていったとき、

かなりのかずがおいかけていったのみえてたぜ。」


「うん、もうざんだんがゼロになっちゃってた。」


そう言ってリュックを掲げ、笑い合う二人。

その横の木の根元で、戦いの疲れのせいか寝ているギーム君。


テントの前からは、


「ユッドか、まともに話を聞いてくれる奴でよかった。」


「ディー、昔馴染みだからって悪いことをしてたら見逃しはぜんぞ。」


「わかってる。村に着いたら全部話すから。」


という会話が聞こえてきて。


「では、村に帰るぞ。」


ユッドさんから号令がかかり。

子供たちと、暁の旅団の皆さんをつれて、

林の中を村に向けて歩いていくのでした。




これが、アヤトの初めての戦い。

あまりにも早すぎる、魔物との戦い。

その日のお話なのでした。

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