パンチラな異世界日帰りでドタバタな転生

壺中天

第1話 暴走食パン少女と軟弱眼鏡少年


 少女は寝坊した。

 遅刻ぎりぎりだった。


 少女は片手に鞄を提げ、口に食パンをくわえる。

 だが、バターとジャムを塗るのは忘れなかった。


 少女は制服に着替えかけてた途中の儘であり、下ろし切れていないセーラー服から下乳のブラが覗いていた。

 少女は腰のホックが掛かっていないプリーツスカートの脇から、青と白の縞パンがみえるのを気にしておさえながら走った。

 その速度は時速150 ㎞に達した。



 衣更えの時期なのだが、まだ少女は夏服だった。

 一年生であることを示す赤いスカーフがなびく。

 曲がり角で少女のスカーフが風にさらわれた。

 少女は一瞬だけ気を取られた。

 それ故に、回避できなかった。


 少女がぶつかったのは転校生の少年だった。

 眼鏡を掛けた小柄な体が空中に舞う。

 このとき、既に内臓破裂し少年の意識はなかった。

 そして、10数メートル先のアスファルトへと、襤褸雑巾のように叩きつけられた。

 即死であった。


 少年の落ちた場所に魔法陣が出現して遺体が消えた。

 おそらくは異世界転生、もしくは召喚されたのであろう。

 転校生であった少年は異世界転生してしまったのである。





 少年は薄闇の垂れ込めた広間にいて、石の床の上にぼんやりと立っていた。

 レンズにひびが入り蔓が壊れた眼鏡を掛けていた。

 どうやら王女らしき人がただ一人で少年の前に控えている。

 少年は痩せぎすの線のほそい感じだった。

 王女のほうは生き生きとした眼の丸顔である。

 茶色い髪は肩くらい迄あり、短いツインテールにしていた。

 淡雪のような衣裳が仄白く浮かび上がっている。

 少年は自分にぶつかった少女を確認していない。

 従って、王女が少女のそっくりさんであることをしらない。

 しらざるがゆえに、しらざるがまま恋した。


「勇者様! どうか魔王を倒して、この世界をお救いください!」

 王女は少年に飛びつき、両腕を首に巻きつけた。


 グキッ!?


 力あまったのかあっさりと少年の首が折れた。再び、即死であった。




「わーっ、ごめん! 大丈夫だった?」

 少年は少女が駆け寄って来るのをみた。

 少年はもとの世界へと転生し、肉体の損傷は修復されていた。

 なお、二人が衝突した際において少女が大股開きの尻もちをを披露したり、少年の顔面がパンツで包まれた股間と接触するという、ラッキースケベなる現象が発生しえたかったのは真にもって痛恨の一事といわねばなるまい。

 しかしながら、かの少年と少女とのパワー差は如何ともしがったかったのである。


「はい、これおわび」

 少女は囓りかけな食パンを少年の口へとおしつけた。

 少年は地べたに座ったままである。


「わー、遅刻しちゃう! そんじゃあーね」

 スカートのホックがかかっていなかったのを覚えておられるだろうか。

 少女は慌ただしくも元気よく駆け去ろうとし、ずり落ちたスカートに足を取られて顔からこけた。

 奇跡的にひっかかっていた少年の眼鏡もぽろりと落ちた。

 尺取り虫のように持ち上げたお尻はパンツが丸出しだった。

 しかも下がって半ケツになっていた。

 貧乳の少女に胸の谷間はないがお尻にはあった。穴までみえなかったのはさいわいであった。

 そのようなことになったら、いかに少女とて恥死するしかない。

「うーん、パッ……パンツみた?」

 現在もみえているが少年はそれをいったらいけないような気がした。

 しかしながら、嘘を吐くのもまた躊躇ためらわれた。

「――空が青いですね」

 それ故、無難に話題を逸らした。

「あ、ありがとう。ほんと……秋晴れだね~!!」

 少女もわかっていたのであろう。やや不自然に声を張り上げながらパンツを上げた。

 少年はそのとき股布クロッチの脇から覗く女の子の大事な箇所がチラッとみえてしまったのであった。

「ほんじゃ、恥ずかしいから……もういくね、ごめんかんにんね」

 少女はまっ赤な顔で低くなった鼻をおさえながらだーっと走り去った。


「みてないみてない! 眼鏡してなかったから、ぼんやりとしかみえてない!」

 少年はあせりまくりって何かに弁解する。

 落ちた眼鏡が完全に壊れていた。

 意外に端正な顔立ちであった。

 叫んだ拍子にパンも落ちていた。

 少年はそっとそれを拾い上げると、王女に似た少女の残した歯の跡に口づけした。

 甘酸っぱいジャムと芳醇なバターの塩味のするパンはおいしかった。

 少年はまだ恋したままだった。




 この後、二人は担任に連れられて入った教室で、またもや顔を合わせることになり、お互いまっ赤になって何やら叫びながら指さし合う。


 あれから、あちらの世界がどのようになったかは不明なるも、少女とそっくりさんである王女がいさえすれば、魔王ごときどうということもなかったのではなかろうか。


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