性格株式で次にくる性格は?

ちびまるフォイ

10歳すぎれば性格が登録されます

性格株式市場に手を出したのはつい最近のこと。


『誰でもできる!性格株式!!』


という本を買って、読まずにその気になっていた。

でもいざ性格株式市場を見てみても数字が飛び交ってなにがなんだか。


「うーーん。よくわからない……とりあえずなんか買っておこう」


性株とかいうなんだかよくわからないものを買ってみた。

でも株価は変動せずに儲けたのか儲けてないのかわからない。


「あんた素人かい?」


「え、あ、はい!」


「あっしはここでバイヤーをやっているものだがね。

 今、あんたにおすすめの性格株があるんだよ」


「それってどの性格ですか?」


「"思いやり"の性格株だよ。次は間違いなくこれがくるね」


「買います!!!」


まだ株価が安かったので買ってみることに。


性格株式は、世界にいる人間の性格を集計して人数が多くなると株価が上がる。

怒りっぽい人が増えれば怒りっぽい株が高くなる。


「でも、どうして思いやりなんですか?」


「これから高齢化社会になるだろう?

 みんな助け合いの心が世界に広がっていくから、

 性格の比率は"思いやり"が多くなるんだよ」


「な、なるほど……!」


ここまで見越して買わなくちゃいけなかったんだ。

性株なんてわけわかんないものをよく考えずに買った自分がはずかしい。


「結果はすぐに出るものじゃないからね、思いやりの性格が増えるのを待ちな」


「はい!!」


それから何か月かして性格株価の動向をずーーっと見ていたが

世界から思いやりの心が増えることはなかった。むしろ減って株価は下がる。


『近年、医療技術の発達により若者より元気な高齢者が増えています。

 口癖はなんと"年寄り扱いするな"だそうです』


ニュースでも元気すぎる高齢者を報道していた。

助け合うどころか、助けが不要な状態になっていった。


「しまった!! 騙された!!」


気付いたころにはすでに大損している時だった。

市場に戻って男を見つけると思いきり胸倉をつかんだ。


「この野郎! よくも騙したな!」


「ああ、ああ騙したさ! 騙したとも! ライバルは少ない方がいいからな!」


男はごまかすこともせずに認めた。このままぶん殴ろうかとも思ったが……。


「ひと儲けできたお礼に、あんたにはとっておきの情報を教えるよ。

 だから、その振り上げたこぶしを下げてくれ」


「とっておきの情報?」


「ちょっとこっちへ……」


男に連れられて人がいない裏道に入ると耳打ちされた。


「あんた、インサイダー性格って知ってるかい?」


「いや……知らない」


「これから生まれる子供の環境を意図的に操作して、

 子供の性格を自分たちの求める性格にする方法なんだ」


「え? つまり……」


「そう。思いやりの子供を作るためにはそういう環境を作って生活させる。

 そうすれば性格株式も大きく影響するだろう?」


「なるほ……って、もうだまされないぞ。それも嘘だろう?」


「嘘をつくならここまで話すかぃ」


男はインサイダー財団が関係者にのみ見せている監視カメラの映像を見せた。

部屋には絵本やかわいい絵画などが飾られている。

子供たちはそれだけを読んで生活していた。


「これが嘘に見えるかい?」


「本当にここで性格を作っているのか……!」


「ここで育った人間は性格が強制的に"優しい"性格になる。

 性格登録される10歳まで我慢すれば、性格株はぐんと上がるぞ」


「たしかに!」


俺は優しい性格の株をまとめ買いした。

あの部屋は外界から完全に切り離されていて、入る情報は絵本の優しいお話。


これなら確実に優しい性格になるはずだ。




部屋に閉じ込められた子供たちが10歳になる誕生日。


「いよいよ今日株価が一気に変わるんだな」


「ああ、期待しておきな」


0時になった瞬間、株価が一気に変動した。

優しい性格株は……ぜんぜん上がってなかった。


「な、なんで!? 全然やさしい性格が増えてないじゃないか!!!」


隣を見ると男はにぃと満面の笑み。


「ぎゃははは! あんたバカだなぁ! 2回も騙されるなんて!

 あの子供たちが優しい性格なんかに育つかよぉ!」


「そんな……!」


男は"優しい"の性格株を買っちゃいなかった。

買っていたのは"反抗心"という性格株だった。


「閉じ込められた部屋の中で毎日同じような話ばかり聞かされた子供。

 そいつらがこっちの思惑通りに優しい性格になるわけないだろ!

 みんなその生活が嫌になって反抗的な性格になるに決まってる!」


「だ、だましたな……!」


「あんたがもっと思慮深けりゃ大儲けできたのにな! あははは!!」


優しい株を大量に買って大損してしまった。


ネットの発達によりみんなお互いを監視し合うような世界なので、

優しい性格の人なんてどんどん減ってしまう。


「ああ……もうだめだ……」


手持ちの「思いやり」や「優しい」の性格株を売っぱらっても

買ったときの軍資金はもう戻らない。大損だ。


そして、最後に手元に1種類の性格株が残った。







数年後、性格株価が爆増して一気に大富豪へと返り咲いた。


「やったやったぁ!! 最後まであきらめないでよかった!」


大喜びしていると目を点にした男がやってきた。


「お前、いったいどうやって儲けたんだ!

 インサイダー性格でもやったのか!?」


「そんなことはやってないさ。

 ただ、確実にあの子供たちが1つの性格が芽生えるって信じていた」


「そんなことできるわけない! なんの株を買ったんだ!!」


男は俺の持っていた性格株を奪い取った。

見るなり男も納得した。



「思春期になればみんなエッチな性格が芽生えるに決まってるだろう?」



最初に買った性株。持っていて本当によかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

性格株式で次にくる性格は? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ