恋愛以外

いろいろ

第1話

腐爛し切った生活に腹が立ちママチャリに腰を乗せて出掛けてみる夏。おはようを言う暇もなく仕事に出ていった親を追跡する朝陽にギアを絞り重くなったペダルに前傾。思い立ったが吉日で立ち去ったが明確な行く宛はない。深くも考えないで近所の親密に馴染んだ道を直線に操縦。

登校のない夏休み、出掛けた場所は主にコンビニ。後は永らく家に居て何処かに遠出するのは稀。アルバイトの努力もしない帰宅部の宿命。ゴミみたいな毎日の経過が私に嫌気を挿してきた。怠惰は死に値すると思った。未知なる場所に行きたくなった。新しさのある場所なら何処でも良い。私の知らない景色が私の器量の食器汚れを洗い流してくれ。私が私としての基礎を高めるため。

スクランブル交差点に遭遇する。これより先は未視認町角。家に篭っていたら絶対不遇な領域。時間の無駄というリスクはあるけど何もない今なら許可して進むしかない。信号が緑に変色する。昼間の青空が暑い。地球はまだ太陽に媚を売る様子。箪笥に放置気味だった帽子を被ってきたのは功績。日中の中傷も避けられて好都合。しかれど家宝の冷房には敗北する。服の裾に汗が井戸水の様に零れる。ばたばただらしなく旋風する。シャツから風が流入してきて気持ちいい。これだけで家から出た利益かもしれない。家具屋とスポーツ用品店が共に道沿いに接して大規模に連ねる。この町が案外量販店に恵まれていることに感涙を振りながら先へ探す。目分量で鑑定した治安の良さそうな通りの履歴を更新。隣の上空の高速道路に並走して徐行。空間が広いせいかさっきより風が快い涼感。吹き飛ばされないよう頭頂部を低く押さえた。

初見の造形物はどれもこれも都会の映像。植物が土に根っこを植えたベンチ、煙草の煙が拡散する喫煙小屋。日に照らされて眩しい跳ね返り。疲労に嵌った仕事に咳を付随する人や親に飽食して訪れる学生。数回見て慣れるとしたらそれまでだろう新天地。私が驚嘆するには遥か遠い。一瞬にして更に先を捜索。鉄香る企業区から看板を象徴的に繁華するらしき街に突入。平日なのに油断も隙もない喧騒をママチャリで薙ぎ倒すのは匙を投げて、日影になった路地を選ぶ。

のたのた漕いで角膜に送られたのはファストフードの店。手加減も情もない暑さに抗えないのと空腹とで、斬新さはないけど当局は降りて門戸を叩くことにした。でも一応外で飲食するのは珍妙なる。預かったトレーと食糧を持って見晴らしのいい二階に座る。褪せた包装紙を破ってむしゃり。私の物臭さえ食い潰す様に。だけどこれだと家の中と比べて相違ない。もっと刺戟を収取しないと倦怠感に負ける。結論を導くと急いで食べて店を脱出した。

自転車に騎乗して道草を轢き荒らす。更に更に先に延長した意識。高架下を潜ろうと決定したその時、背後に違和感を認識。車体のアルミに何かが煌めいた。急速なブレーキを課して鐔と首を捻じ曲げると空に一つの光がある。何だ最寄の恒星かと知識を遺棄して再サイクリングしかけたがそれはリサイクル。架橋の間からも明暗の戦犯が自白した。改めて車輪ごと転換すると、偽りの太陽の位置がずれていた。縮尺された天空で睫毛の厚さずつ下がるそれ。私は好奇の着火を期待して仮の落下地点へ射出。丁度同じ道を遡る様に駆ける。概算すれば三キロの離れ離れにただいまして帰る。天を見上げればまだ先。さっきの先とは後戻り。正しく私の家の方向。体育以上の激しさを派遣。疾風で乾いた汗が寒気を誘引。

カオスな交通網に再会する。気持ち近寄れたと思った末、空の輝きが一際鋭く化す。瞬間似非太陽が尾鰭を付けた凄惨なスピードで急降下し始めた。生まれて初めて起こる現象にリビドー膨らむ。何もない人生に何かが兆す。何も生まれない世界に地響きを。赤色から替わるスターターの正面切って全身で。終に空からの流れ弾が地上にぶつかった。ウィリーした様に飛ぶママチャリ。危機に晒した私の肢体。ベルを喚き散らしながら観衆を捌ける。捌けて退けて分けて肉の岩壁を超えて、生気が業火に炎上して。

住所に着いたら、瓦礫しかなかった。

家が隕石に壊されてた。



不登校することにした今日の始業式。親は心的外傷を背負ったと思い込み快く許した。代わりに瓦礫の中から無傷な物を捜索しようと誘われて三日振りの家へ訪れる。気怠く立つ門を引くまでない、屋根と基礎が隣接した地べた。顔を見合わせ親共は涙する。土煙だらけの家具に虚しくなる彼らと三人で宝探し。咳き込まないようマスクを嵌めて。一時間努めて、疲れて瓦礫に体育座る。近所を見回して随分低くなったと思う。風が服に馴れ馴れしい。親も飽きたらしくベンチな天井に腰を置いた。

隕石が降って何もかも色褪せた。怠惰に対抗していた意識は宇宙へ飛散。私の視点で進化を願う意識なんて、宇宙の視点に比べたらごみだと気付いた。私が怠けていようがいまいが、家に居たら私は死んでた。隕石に当たれば人は死ぬ。宇宙の匙加減で地球は壊れる。結局全ては宇宙。地球上で私や他人が何をした所で、それは宇宙のごみ。人は宇宙に勝てない。人の考えることなんて全部下らない。家も学校も仕事も単なる人の作り物。そんな物に感情を込めても無駄だし、その感情すら宇宙に負ける。だから何もしなくていい。何も考えなくていい。考えた末そういう結論を導いた。隕石から被った影響に関わらずそう思う。そうに決定してる。私という絶対的な存在でさえ大規模な宇宙の前には敗れる。宇宙規模で私を見れば、いっそ私は生きなくてもいい。生きていても死んでいても変わらない。死にたくなればいつでも死ねる。死ぬことは特別なことじゃない。いつ死んでもいいから今は仮に生きている。生きるか死ぬかの釣り合いの中で今のまま生きている。瓦礫の上で死んでいない。死んだ先には何もないだろうけど生きていても何もない。何もしないで夕陽を見る。

宇宙規模で見た町の景色は小さい。夕陽の方が大きく輝く。ただしそれ以上の光はない。宇宙は今までと同じ空の向こうで、私を気にしない。

空を見ていると、また見たくなる。上着の裾を探って取り出す。手のひらに握ったそれを上空に掲げる。それは回収される前にこっそり捕った隕石。先を目指す意識が遺した功績。これがあれば宇宙を忘れない。忘れられない体験だからこそ象徴が要る。これを糧に私は生きていく。

そして最終的に死ぬ。

瓦礫の上、行く宛ない未来に隕石を投げる。

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