傍観するのをやめた私

森崎優嘉

第1話傍観をやめた

「ちょっとご飯まだなの!?早くしなさいよ!!」


また始まった、母と妹の日常。


「ご、ごめんなさい!今作ります!!」

「待ってられないわ!出前よ出前!!」

「…ごめんなさい」


妹が新しい父と共にやって来た時から続いていること。


「梓は出前何がいい?」

「……なんでもいい」


母が新しく来た娘を嫌い邪魔者扱する。シンデレラのような話だったら普通姉である私もいじめるのだろうけど、私は違う…ただ見ているだけ。むしろ実の母が嫌い、母の外見しか見ていない新しい父も嫌いだ、新しい妹は…嫌いではない。


母が再婚したのは私、東條梓とうじょうあずさがまだ母の名字を名乗っていた中学3年の時だった。


「はじめまして梓ちゃん、東條聡とうじょうさとしです。隣が娘の遥、梓ちゃんの3つ年下で小6なんだ…遥、ご挨拶は?」

「は、はじめまして!東條遥とうじょうはるかです、よろしくお願いします」

「あらあら、可愛らしいわね」


母の目は気に食わない奴を見る目だった、だが2人は気づいていない…私はこの時点で先の未来が予想できた。母にとって何が気に食わないものなのか、まったく理解できない。


「いい子にしているんだよ?」

「うん!お父さんも早く帰ってきてね」


新しい父が出張へ行った日、妹がお茶を零してしまった時だった。


「もうイヤ!最初からあんたの顔が気に食わなかったのよ!私の視界から入ってこないで!出て行って!!」


いきなり母が怒鳴った、顔が気に食わない?どこの子供かと思った。妹は泣きながら部屋へと逃げていった。


「ああもう最悪!最悪!」


最悪なのはどっちの方なのかと思いながら私も部屋へと向かった、妹の部屋の前を通った時に聞こえた鳴き声を無視して。


私が高校に進学し、妹も中学生になった。

最近妹を見ていないがある日、入学とともに始めたバイトで帰りが夕食の時間だった時だった。母は一人で夕食を食べていた、テーブルの上には私の分も。でも妹の分が無かった。


「…あの子のは?」

「この家に済ませているだけでもありがたいのに、中学生にもなったのだから自分のことは自分でやってもらわないとね」


それはつまり、自分の夕食は自分で作れと…この母は本当に愚かだと思う。


「そう」


夕食が食べ終わり、部屋へと向かう時妹の部屋からお腹の鳴る音が聞こえてきた。その夜、母に明日の弁当おかずと嘘を付き妹の夕食を作った。時間はもう夜中の1時で母はとっくに夢の中、そんな時間に妹はリビングへやって来た。久しぶりに見た妹は顔色も悪くやせ細っていた、あの母は私が知らないうちにどのような仕打ちを妹にしたのだろうか。そんな妹はリビングにいた私と夕食を見て驚いていた。


「ぁ…」

「貴方の夕食よ」

「あ、ありがとう…ございます」


弱々しい声に私は母への苛立ちが増えた。


「いただきます」


そう言って食べ始めた妹は泣きながら美味しいと言っていた。


「とても…おいしいです」


この姿を見た私は決心した。私が大学、妹が高校に進学する時、この家を出ると。

決めてから私の行動は早かった。幸いにも母方の祖父母と伯母はまともな人だったので話をしたら即協力を得たしマンションも決めた。丁度その頃母も父も家にいないことが多かったため妹と話すことがたくさん出来た。

その結果、私が大学へ進学し妹もここから遠い高校に合格したため両親に話すことになった。


「ちょっと、どういうこと?」

「ここからだと私の大学へは遠いから引っ越すことにしたの、マンションはもう見つけてあるし大体の荷物はもう運び済み。あと、この子も合格した高校がそのマンションのほうが近いから一緒に住むことになった。生活費は伯母さん達が負担してくれるし今までバイトで貯めたお金があるから大丈夫。最後の荷物もトラックに積んであとは私達が行くだけだからもう行くわ、連絡はたまにする」


叫ぶ母の声を背に怯える妹を連れて新居へ向かった。




新居となるマンションは結構広かった、このマンションは伯母と祖父母が厳選したのだから何となく予想はできた。祖父母はかなりのお金持ちらしく、伯母も優秀…なのに何故母がアレなのだろうと疑問に思う。

とりあえず私も初めて入ったので散策をする。キッチン、お風呂、物置、部屋…どこの部屋を使うかきめないとね。


「…遥」

「は、はい」


もう何回も話しているのに未だ私と話す時緊張する…まぁ、母の仕打ちを思えば当然のこと、でもさすがにね…


「あ、梓さん?」

「今まで、母がどんな仕打ちをしてきたかは分かってるわ。私は知って無視していたのだから…これだけは言うわ。この引越は私のためでもあって貴方のためでもあるの」

「私の、ため?」

「あの母には産み育ててくれたことは感謝するけど、それ以外に感謝することなんてない。父も特に興味はないわ、でも…貴方に会わせてくれたことは感謝する」


妹の顔を見ると涙がボロボロと出ていた。


「かなりの時間を掛けてしまったけど…ようやくあんな最悪でしかない家から出てくることが出来た」


私は泣いている妹を抱きしめた、あんなに小さかった妹が…もうこんなに大きくなって。とても痩せてしまって何度母を殴ろうとしたことか。


「ようやく、貴方を、遥を…救うことが出来た」

「っ…あ、ずさ…さんっ」


これが、無力な私の罪滅ぼし。この子がこの先、幸せに笑ってくれることを…願う。

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