11:任意のセールス

\ピンポ~ン/


自殺しようとしている人に任意のセールスが来た。


「何のセールスですか」


 「薬です」


「あいにく、違法なものに手を染めるつもりはありません、結構です」


 「まあまあ、これは麻薬の類ではございません」


「では何ですか」


 「これはあなたが自殺しなくても済むようになる薬です」


ああ、また引き止めか。命を粗末にするなみたいな正義感の押しつけは聞き飽きた。


「余計なお世話です、さっさと帰ってください」


 「いいえ、ご覧になればきっと満足なさるはず、これはあなたの意識を消す薬です」


「眠るということですか」


 「ちがいます。この薬を飲んでもあなたはこれまで通り会社に行き、帰り、生活を続けるでしょう。ただひとつ違うのは、あなたにはもう意識がないことです。苦しんだり、悩んだりといった仕草はしますが、そこにはもう感情がない。あなたはいなくなりますが、誰も気づかないし誰も悲しまない。ただ消えるだけ。」


自殺しようとしていた人は探していたものをやっと見つけたという顔をした。


「ああ、それですよ!私が探していたのは。自殺の心残りは、私の死体を片付ける人に迷惑をかけたり、葬式の費用で家族に迷惑をかけることだ。これなら誰も苦しまず、そして私もこれ以上苦しむことは無い。君に感謝するよ。さあ、早くその薬をよこしてくれ」


 「わかりました」


セールスはそう言って聖書任意を取り出した。

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