深夜の裏側
篁 あれん
初めて上司と恋バナしました。
十日かけての西日本弾丸ツアー。
スケジュールは分刻み、上司である
新幹線の中ではもう寝る以外の選択肢はないはずなのに、寝たら絶対に乗り過ごすと言う強迫観念から勝木深夜は滋養強壮剤を一気飲みした。
「大神さん、寝ないんすか?」
「寝たら地球の果てまで起きない自信がある」
「……JRすげぇな……地球の果てまで続いてんのか」
「
「いや、そこは信用してないんで」
「……」
メンズアパレルメーカーに勤めている大神と勝木は地元の店舗で店長とチーフとしてタッグを組んでもう五、六年になる。
店長の大神は西日本に担当店舗約三十店舗を持ち、毎日移動と担当店舗の指導に当たっているのだが、勝木はその仕事に今回初めて同行し、壮絶なスケジュールに二十八歳男二人で
大神は普段からこんな生活をしているので、今帰って来たと言う連絡を貰って仕事の用事で自宅を訪ねたら玄関で靴を履いたまま爆睡していたりする。
寝たら早々に起きない。
と言うか、スイッチが切れてる時のこの人は廃人と呼んでも過言じゃない。
最近彼女ならぬ彼氏が出来たらしいが、こんなに忙殺されてちゃ恋人どころの話じゃないだろう。
「彼氏、今日会えるんじゃないです?
「……こんなに
「でも、明後日からはまた東京で戦略会議でしょう?」
「会ったらさ……」
「はい?」
「やっぱシたくなるし……腰立たないとか、マズイし……」
「どんだけヤるつもりなんすか……」
「煩いな。普通にシても腰は痛くなるんだよ」
「へぇ……」
「ってか、勝木がこんな話振って来るとか何なの? 俺の事、
「まさか。ただ、あんたにはそう言う人いるんだから休みの日くらいはゆっくり癒されてたら良いなと思っただけですよ」
「お前だって彼女いたんじゃなかったっけ?」
勝木はスマホのラインの画面を大神に向けて「終わりました」と業務連絡よろしく報告した。
この弾丸ツアーの七日目に「私の事なんかどうでも良いのよね」と来ていたラインをシカトしていたら、八日目に「別れたい」と入って来て、「分かった」と返したら「最低」と返って来た。
終わった、と思っていたら今朝「私は貴方の事が好きだった」からのポエム的超ロングラインが送られて来て、うっかり既読つけて非常に面倒そうだとシカトしてたら五十件以上の着信があって、流石に引いた。
「こえぇ……お前、ちゃんと話してやれよ……?」
「え、もうこれ話通用するレベル超えてますよね?」
「まぁ、俺らみたいな仕事ばっかしてる男は相手の事、淋しくさせちゃうんだろうな」
「大神さんの恋人も淋しいのは一緒だと思うけど?」
「……お前、博愛さんに食い付くね」
「いやー、兄弟に彼女出来たらちょっと気になる、みたいな感じかなぁ。仕事の鬼で色恋に全然興味無さそうな硬派な大神さんが、年上のお兄様とどんな恋愛すんのかなってね」
「べ、別に……普通だけど?」
「普通って? だって大神さん、束縛とかされたら絶対ブチ切れそうだし、マメに連絡とか入れないでしょ?」
「お前、人の事言えんの? お前よりマシだと思うわ」
「俺はほら、今人気の俺様キャラって事で……」
「キャラって言うか地がソレだろ、お前……」
「そんな俺を好きだって言うんだから、意味不明ですよねぇ。女ってワケ分かんね」
「お前、鬼畜かよ。でもまぁ、初めてちゃんと付き合ってみて分かったけど、嫌だなって思ってた事があの人相手だと嫌じゃ無かったりするんだよな。それは自分でもちょっと意外だ」
「
勝木はそこまで人を好きになったと言う記憶がなくて、彼女は途切れた事はないけれどそれも告白されて相手が音を上げるまでのお付き合いと言う感じが多かった。
気が向いた時にしか連絡しない自分の事を、健気に待っていたり好きだと言ったりする女の事が、ある意味不思議で理解が出来ない。
だからと言って仕事より優先する程の感情を彼女達に抱いた事も無い。
肉体関係は義務的な物だったし「幸せ」と言って泣かれた時には本当に意味が分からなくてあり得ないくらい冷めた。
「勝木もさ、本気になれる相手見つかったら分かるんじゃね?」
「本気ねぇ……」
この数か月後に店のバイトである
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