ゆえに、勇者は選ばれた
根谷つかさ
プロローグ〜世界の終わり
「……姫様の結界も、じきに限界か」
銀髪の女騎士がそう言って、休めていた身体を起こし、巨大な槍を構える。
「……そのようです」
地面に手を着いていた少女が複雑な面持ちで頷き、そして、黄金の剣を持つ少年と視線を合わせた。
「ごめんなさい、勇者様、この世界は、敗北してしまったようです」
恥じらいや、申し訳なさや悔しさを隠そうとして、けれど隠しきれない苦笑で、少女は告げる。
その視線の先に立つ少年は首を横に振った。
「まだだ……っ。まだ、この命ある限り、僕はこの世界のために戦う!」
そうは言うが、少年も少女も女騎士も、
それだけじゃない。辺りは見渡す限りの焼け野原。数千の敵が溢れ、中には、王族の居城よりも巨大な敵さえも居た。
勝ち目など、万にひとつも有り得ない。
「いいえ、勇者様……この世界にはもう、守るべき民草もありません……ですので、勇者様。これから最後の力を使って、あなたを……あなただけは、元の世界へ帰還させます」
「待って……、待ってよ姫様! そんなこと頼んでない!」
「いいえ……これは私の願いなのです。あなただけは生きていて欲しいという、私の最後の
「そんなことを言わないでよ! 僕もこの世界が大好きなんだ、好きになれたんだ! だから僕も、この世界のために──貴女のために!」
「運命の加護を解除」
「っ!?……姫様!!」
「──ごめんなさい」
唐突に、少年を襲う浮遊感。そして、不可視の光に包まれる感覚。
その感覚には覚えがあった。これは、異世界へ飛ぶ感覚。もしくは、元の世界へ戻る感覚。
「待って……僕はっ……ぼくは!!」
少女に最後まで言わせず、少女は振り絞ったような笑顔を、少年に向けた。
「──希望をくれて、ありがとう」
「ひめさまぁぁぁああああああ!!!!」
そして、その世界から救世主は消える。
──その日、その世界は、魔王に敗北した。
その世界における人類史は、魔王によって、
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