あの夏の日、君と共に
タコ
第1話 この世から私が消えた日
蝉の声が聞こえる。
九月になったというにも関わらず鳴く音は耳に残る。
そんな雑音を耳にし、今日もまた日本史の授業を聞き流していた。
いつものように繰り返す授業。
いつものように騒ぐ女子生徒。
いつものように暑い日々。
いつものように聞こえる蝉の声。
あの日から、5年と2週間の月日が経った。
私は、あの日からずっと後悔していた。
どうして、私だけ生き残ったのだろうか。
私はあの日から何も変わっていない。
なぜならあの日、私の全てが覆されたからだ。
そう、あの夏の日から。
それは、私が中学2年生の時だった。
高校に入る前、私は京都の田舎に住んでいた。
夏休み最後の日。
私は、親友3人と花火を見ようと学校の校門で待ち合わせをしていた。
しかし、そのうちの一人である桜井春樹は来なかった。
集合していた時間を20分過ぎたところで西村秋也が電話を掛ける。
集合場所を間違っているかもしれないので、私と雪乃は念のため付近を確認する。
しばらく付近を探したが、見つかる気配はなかった。
「どうだった?」
「やっぱり見つからない」
「くそっ、携帯も繋がらない。一体どこ行ったんだアイツ」
「・・・あれ、そういえば雪乃は?」
「さっきハルを探しに行ったっきり見てないけど」
「・・・まさか、ね」
すぐさま携帯を取り出し、青木雪乃の電話に掛ける。
「繋がった」
ひとまず、繋がったので安心する。
「もしもし雪乃?」
「妃夏・・・私を・・・探さないで」
彼女からの意外な言葉に違和感を感じた。
「ユキ、今どこにいるの!」
「山の中で黒いフードを被った奴に・・・襲われてる。ハルは・・・きゃっ」
「雪乃!?」
「離して・・・プスッ」
突如、電話が切れた。いや、切られたというほうが正しいのだろうか。
「秋也君、私は警察を呼んで裏山に連れていく。黒いフードを被った奴には気をつけて」
「そこに春樹と雪乃が?」
「多分もう、手遅れだと思うけど」
「・・・わかった」
すぐさま、私は警察の元へ行き状況を説明した。
そして、裏山で見た光景は・・・
あまりにも悲惨だった。
そこから先の事は記憶が曖昧になっている。
後に警察から事情聴取や現場検証の結果を聞かされた。
秋也が亡くなっていた事も。
気付いた時には私だけが取り残されていた。
皆、消えてしまった。
残ったのは、自分が生き残った罪悪感と大切な親友との時間を失くした切なさ。
この世からいなくなってしまった親友のことを考えると胸が痛くなる。
空に消えていった打ち上げ花火のように、
この思いも消えていったらいいのに。
あの日、あの夏の日。君に誘われた花火大会。
消えた君を探した。
君はどこにもいなくて。
君を見つけた時、蝉の抜け殻のようにあなたの心は抜けていた。
あの日、あなたは何を思っていたの?
どうして、来なかったの?
どうして、あんな場所にいたの?
夏の日差し 蝉の声 ラムネの瓶 打ち上げ花火
楽しい夏の思い出を君と過ごしたかったのに。
消えて消えて消えて、残ったのは私だけ。
もう、全部消えたらいいんだ。
いつしか、心の何処かで感じていた気持ちが蘇った。
気付けば授業は終わっていた。
過去に浸っていると、時間を忘れてしまう。
そうして、私は今日という無駄な一日を過ごした。
まぁ、いいか。もう私には、どうでもいい事なのだから。
秋の寒さが体を冷やす。朝の暑さは何だったのだろうと思わすくらいに。
「これで、皆のところに行ける」
川との差が20メートルはあるであろう、橋の上によじ登る。
「もう・・・これで何も考えなくて済むから」
頭に浮かぶあの日の思い出を忘れようとする。
「・・・だけど、夏は好きだった」
全身から力を抜き前に倒れる。
「あぁ・・・あの楽しかった夏の日々を、もう一度だけ過ごしたかったな」
叶う事はない願いを呟き、神崎妃夏は橋から飛び降りた。
あの夏の日、君と共に タコ @takotako0411
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます