異世界の入り口はロッカーで?

小道けいな

第1話 目の前にあるのは危機なのかっ!

 あたしの目の前にいるものは本当なのかっ!

 というか、何、これ!

 ちょ、うそでしょ!

 とりあえず、あたしはそれから目を離さず、少しでも距離を置こうとした。でも、それらもその分近づいてくる。


 あたしの目の前にいる物は現実にありえないものだ。

 いや、そもそも、さっきいたのは、部室で、早く着いたし、よく気が付く後輩枠を勝ち取ろうと掃除をしていただけだよ。

 それだというのに、今、屋外にいる。これだけでもありえない!


 石畳の道、と思われるものは苔むしており、素敵だ。それに、道のわきにある岩にも苔が生えている。それに、その岩の上にも木が生えており、街道を日陰に導いている。木々があるが、真っ暗になることもなく、それなりに明るい。

 適度な光が入ってくるからこそ、苔が生える。

 川が近くにあるらしく、せせらぎの音がする。

 駆け抜ける風は涼しく――。


 ――などと今いるところを穏やかに実況している場合ではないのよ。

 いや、誰に向かって実況しているのかという不思議だけどね。

 ただ単に、冷静になりたい、というあたしの脳みそがそのように現実逃避に近い実況をさせていたのかもしれない。


 あたしの目の前にいるのは、大きさは身長あたし以上、横幅はあたしの二倍以上ある生き物。二足歩行をし、革でできているのかわからないけれど、鎧のような物を巻き付けて入る。

 肌の色は深い緑。森の中に隠れるにはいいに違いない色合い。その上、その肌は鎧と同じくらい固そうである。

 顔は豚と犬を足して二で割ったような物。

 手にはシミターやこん棒、盾などそれぞれ持っている。


 いわゆる、オークとかホブゴブリンとか言われる類だろう。

 あたしは自分の持てる知識を総動員して考える。

 こいつらに有効な手段は何か?

 固そうだから魔法だろうか?


 が、ここまで来て、あたしの思考は停止した。現実に戻った。

 ――いや、待って、あたし、普通の人間だから。

 魔法使えないから!


 ――いや、待って、夢の中なら何か使えてもいいんじゃないの? 実は先日作ったキャラ、魔法使い出し、ちょうどいいじゃん!


 だんだんと焦りが生じてきたのかな、あたし。

 混乱しているのかもしれない。

 いや、最初っから混乱しているでしょ!


 そもそも、ただの人間、ただの女子高生だよ!

 こんなんの前で何ができるのだろうか?


「逃げるしかないじゃないの!!!」


 あたしは威嚇するように絶叫した。

 そして、隙をつくように走り出そうとした。


 しかし、相手はそれなりのレベルを持つ生き物。たぶん、うん。

 あたしは、レベル1にも満たない一般人。

 なんのレベルかと言えば、戦士とか魔法使いとかといったクラス、職業やスキルなどだよ?

 ああ、もう! 実況はいらないし!


 それらはレベル差からして、あたしの行動なんて簡単に止められると考えているに違いない。

 その通りで、それらはあたしの進路を丁寧につぶしていく。

 にやけて見えるのは気のせいか。

 あれか、ネコがネズミをいたぶるような、あれかな?

 いや、もう、確実に遊ばれている! ああ、むかつく! むかつくって「吐く」っていう意味だって辞書で見た。本当に吐いて色々ぶちまけてやりたい!

 どうでもいい! それ、もう!


 隙をついたつもりが、それに手首を掴まれた。

 振り下ろされるシミターの鈍い光に死を見た。

 シミターだけ理解できてどうする……冷静に考えている場合でもないね。


 馬が走る音がする。

 そして、風切り羽があたしの前を通り過ぎた。


「小娘、逃げよ!」


 あたしは逃げる。

 この生き物たちから逃れるように、助けに来てくれた人たちの方向かつ同じところに入らない場所に。ちらりと見た救援者は金髪の男性で鎧は銀色に輝いて見えた。

 戦闘に巻き込まれるのもごめんだ。

 それに、助けてくれる人がすごくいい人かは別だ。


 ――声はすっごくかっこいい。


「小娘、足元気をつけろ」

「え? う、ああああああ、ごぶっ」

 あたしは石で足を滑らせ、頭から冷たい水の中に倒れ込んだのだった。

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